第4話 異文化交流
客室に向かい廊下を進む日向は今日の出来事が夢を見ているかの様な心境だった。架空の存在の魔法の実在、異世界から現れた少女など、今日一日で既にラーメンと焼肉をたらふく食べた後みたいな満腹感で一杯だった。
「いや、確かにじいちゃん一時的に行方不明になってたって話を聞いたことはあるけど……そりゃ探しても見つからないわな。異世界なんて探す奴いないでしょ……」
幼少期に聞いてきた源蔵の逸話も異世界というキーワードを足せば腑に落ちることが多かった。例えば催眠術が物凄く上手かったなんて話を聞いたことが日向にはあったがそれも先ほどの魔法ならあっさりと納得できる自信が今の日向にはある。
そうあれこれ考えながら歩いていると客間にたどり着いた。
「失礼しますよっと」
「―――ッ!!」
無造作に襖を開くと日向の耳に小さな悲鳴のような音が聞こえた。音のした方を向けば少女が体を起こして掛け布団を胸の前に手繰り寄せていた。
「……あー、すまない」
いきなり部屋に入ってしまったため少女を怖がらせてしまったのだろうと当たりをつけて通じるかは分からないがハンドジェスチャーを併用して謝罪した。だが内心心臓バックバクである。言葉は通じないが相手は異性で年も(外見上は)近いのだ。噛み噛みじゃないだけ日向には上出来だろう。
「……?」
だが、少女には伝わらなかった様だ僅かに首を傾げ、日向が見ても分かるくらいには少女の頭上には疑問符が浮かんでいた。だがそれも束の間で、何かに気が付いた少女は布団を一度入念に触ると一気に顔色を悪くした。
「―――!?―――!!――――――!?」
「えっ……ちょっ……待って待って待って!言葉は分からんがひとまず落ち着けって!」
少女は何やら酷く恐縮した様子で日向に何かを伝えようとしているが、悲しいことに日向には全く言葉が理解できないため少女を宥めることしかできなかった。
「じいちゃーーん!やっぱ無理だ―ーッ!ヘェーールプッ!」
日向は自身のメンタルも加味して無理だと判断し源蔵を呼んだのだった。
※
「日向、お前は向こうの世界の言葉を知ってると思ったんじゃがのぉ……」
客間に現れた源蔵の第一声はそれだった。
「いや、無理でしょ存在も初めて知った世界の言葉とか分かるわけないでしょ」
「いいや知っておる筈じゃ……と、そのまえに、――――――?」
「―っ―――。―――――――――――」
若干不貞腐れたような日向を笑ってから源蔵は少女に話しかけた。声を掛けられた少女は少し驚いたのちに姿勢を正して畏まったような態度で源蔵に言葉を返していた。
「―――――――――?」
「っ―――!――――――!」
源蔵と少女が言葉を交わしているのを見て日向は、自身の祖父が本当に異世界の渡航(?)経験があるのだなと現実逃避気味に考えていた。
「よし、日向。リビングにいくぞぃ!」
日向が手持無沙汰で呆けていると源蔵が部屋の移動を促した。どうやらリビングで色々話をするようだった。日向は頷いて源蔵に続いてリビングに向かって歩き出した。その間日向はチラチラと少女に見られていて妙に気まずかった。
「さて……話をしようかのう……とその前に―――、―――」
合流したフェイを含めた四人が座ると源蔵が何やら呟いて指を鳴らした。その途端源蔵の指先が僅かに光り日向は目を細めた。
「この世界で魔術を行使できるなんて……」
光が収まると日向の耳に聞き覚えのない声が響いた。声の主の方向を見るとそこには少女がいる。だが彼女とは言葉が通じないため部屋を見回す。少女、源蔵、フェイ……他には誰もおらず日向は困惑する。
「今のは【翻訳】の魔法じゃ。これで問題なく会話ができるじゃろ?」
「えっ?じゃあさっきの声は……君の声?」
得意げに話す源蔵を無視する形で日向は少女に声を掛けた。視界の端では源蔵が「孫が話を聞いてくれなかったのじゃ~ばあさんよ~い」と泣き真似をしていたがグッとこらえた。
「は、はい」
少女は小さく肯定の意を示した。その声は言葉が通じなかった時と同様に透き通ったものだった。
「さ、先ほどは急に部屋に入ってしまい大変申し訳ありませんでした……こ、言葉が通じなかったとは言え謝罪が遅れたことをどうかお許しください」
日向は言葉が通じるようになったため、すぐさま少女に謝罪した。あの状況では悪いのは不用意に入室した日向であり、その負い目を感じてとった行動だった。
「い、いいえっ……悪気が無い事は分かっているので……でもこんなに幼いのに凄く丁寧な言葉遣いができるんですね」
「えっと……」
その日向の行動に少女は目を丸くして驚くが、殆ど同じ年齢だと思われる少女から幼いと言われることは少し複雑な気分になる日向だった。
「まあ、見た目よりはそこそこ年はいってるんですけど、えっと……」
「あっ……自己紹介が遅れました。私はオリビア・フェレスです」
「あ、朝比奈日向です。朝比奈がファミリーネームで日向が名前です」
しばらく話していて漸く互いに自己紹介を果たすことが出来たのだった。
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