第12話 告白
「あああああ」
実家にて。
仙田貴晴は畳の上に直敷きした布団の上にダイブしてのち、ごろごろごろごろと右に左にと布団の上だけで器用に転がり続ける、わけでもなく、うつ伏せのまま微動だにしなかった。
「あああああヘタレな自分がイヤ」
言葉を布団に吸い込ませる。
お互いに涙を流しての再会だなんて、すんごいロマンティックじゃない。
告白する絶好のシチュエーションじゃない。
いつやるの今でしょでしょ。
なーのーにーなー。
「………あ。ヤバイヤバイ。勇気がしぼんじゃう。集めて集めて………あつめて」
気づけば、走り出していた。
裸足だ。アスファルトの道路超痛い。
行き先は、駅前広場から近くの公園だ。
いるはずがない。
いるはずがない。
家に戻って、ちゃんと今度は計画を立てて、会って、最高のシチュエーションで告白を。
「っすき。ず。はじ………初めて。初めて、」
身体が。あほみたいに震えている。めっちゃ震えている。
全身が首振り人形の頭みたいに震えている。
あ。はは。
なんて、イケメンからほど遠い無様な。
「っ初めて会った時にもう好きでした!俺と付き合ってください!お願いします!」
美紀彦さんに向かって腕を伸ばして両の手を差し出す。
ほかの身体の部分がどれだけ震えようが、この両腕だけは微動だにさせない。
「………ごめんなさい」
あ、人生終わった。
「そ。そうです、よ、ね。こんな、前科者と。いや。前科者っつーか。俺となんか」
力ずくで震えを押さえて伸ばした腕を引こうとしたのだが。
「ちがっ。告白を断った。のは。断った、んですけ、ど。それは。その。まさか。仙田さんが。ぼくを。いや。嫌われてはいないとは思っていましたけど。あの。告白はまったく。予想して、いなくて。ぼくは。勝手に。仙田さんを、イケメンのライバルだって思っていて。あなたにいつまでも、イケメンだって、思っていてほしくて。あの。本当に」
「………美紀彦さん」
「ぼくの顔、今、見えていますか?」
「………見えません。見えません、けど。わかります」
「………あ。はは。本当に。本当にあなたには。ずっと。イケメンだって。思ってほしかったのに。なあ」
どちらが先か。
なんて、わからなかった。
気づけば、どちらともに、相手を抱きしめていた。
強く。
「だめだなあ。本当に。あなたの方がずっとイケメンだって。追いかけ続けたいって。思ってしまう」
「あなたの方がイケメンです」
「はい。イケメンです。あなたと同じくらい。イケメンですって。言わせてください」
「俺よりよっぽどイケメンです」
「はい」
「世界中の誰よりイケメンです」
「はい」
「俺と、付き合ってください」
「それは、まだ。もうちょっと考えさせてください」
「わかりました。あなたから、好きだと言われる日を楽しみにしています」
「………これだからイケメンは困る」
「はい?」
「向上心から言いたくなるじゃないですか」
「いや。言ってくれても構わないのですが」
「嫌です。言いません」
「ええ?」
「………仙田さん」
「はい」
「待っていてください」
「………やっぱり。美紀彦さんの方が絶対にイケメンですから」
「はい。もちろんです」
光っていてもわかる。
あなたは今、とっても素敵な笑顔だって。
思わず、触れてしまいたくなるくらい。
「………あの。本当に。ありがとうございます」
「いえ」
家に帰るまで原型が残ってないかもしれない。
俺は本気で心配しながら、美紀彦さんに横抱きしてもらって家まで連れて行ってもらった。
「すごい光っています」
「はい」
中秋の名月が見えなくなるくらい、美紀彦さんは眩く光っていた。
(2023.9.27)
光るぼくに愛の目を 藤泉都理 @fujitori
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