第35話 本来なら


 テスラが奇跡の生還を果たした翌日。


 俺は屋敷の食堂で、家族と一緒に朝食を取っていた。


「テスラ。バーナードが死んでしまったのは残念だったな。だが犬はやがて死んでしまうものだ」


 テスラ父が少し威厳を持ったような声を出す。


 なお彼らは現在、俺がレイディアス伯爵からもらった金で食っている。


「それでテスラよ。実はレイディアス伯爵から連絡が来てな。お前を学校に行かせてはどうかと」

「レイディアス伯爵は我が家の財政状況を知らないんですね」


 学校なんてものは物凄くお金がかかる。


 地球でも私立の学校は学費が高いというが、この世界ではその比ではない。


 こんな貧乏な家で学校に行かせるならば、ものすごく頑張らなければならない。


 おそらく五年単位でコツコツ金を貯めて借金も必要だろう。いやそれでも足りないかもしれない。


 ベルアイン家は貧乏の極みだからなぁ…………そういうわけで俺は学校に行くのは諦めていた。


 現時点の俺の魔法の技術が、すでに学校主席で卒業できる以上の実力があると聞いているのもあるが。


 ぶっちゃけ学校の教師よりも、テスラのほうが優秀だしな。だから別に学校に行く必要はないのだ。決して行きたいわけではない。


 行って無双してチヤホヤされたいとか思ってないからな!


「実はな。レイディアス伯爵がお前に頼みがあるそうだ。それに答えれば学費を出してくれると」

「な、なんですと!? どんな頼みですか!?」

「うむ。アーネベルベ令嬢が来年から学校に通うそうだが、何分世間知らずで不安なのだそうだ。それで婚約者のお前に、面倒を見てもらいたいと」


 なんという渡りに船だ!


 確かにレイディアス伯爵からすれば、アーネベルベは攫われたこともあって学校に行かせるのも怖いのだろう。


 だが学校に大勢の兵士を連れて行かせるわけにもいかない。なので俺を生徒として通わせながら、アーネベルベのボディーガードをして欲しいと。


 これはありがたい! 学校に行って無双できるぞ!


「わかりました! 必ずやアーネベルベを守るので、是非学費を出してくださいと伝えてください!」

「そうかそうか! それなら私も返事ができるというもの! よい息子を持って嬉しいぞ!」


 テスラ父は安堵した表情で息を吐いた。


 どうやら俺が断っていた場合、かなり困った事態になっていたらしい。


 相変わらずレイディアス伯爵家との力の差がヤバイ。


 そうして朝食を取り終えた後、俺は屋敷の庭に向かった。


『やあ。学校に行くんだってね』


 そこでは新しい犬の身体を手に入れたテスラが、寝転がって日なたぼっこをしていた。


 新しい身体とは言うものの、正直あまり見た目は変わっていない。バーナードの子の身体だからな。


「やっぱり聞いてたか。ラッキーなことに行けるようだ」

『ラッキーどころか奇跡だよ。僕は感動のあまり泣きそうなくらいだからね』

「流石にオーバー過ぎるだろ」


 学校に行けるくらいで泣くというのは流石に理解できない。


 俺は無双できるから学校に行くのが楽しみではあるが、通えなくても残念程度で収まるだろうし。


『この時期、もうベルアイン領はズタボロだったからね。川の氾濫に流行り病で、学校がどうとか言えること自体が奇跡だ。あの両親が僕に学校に行けと言う時点で奇跡なんだよ』

「あー……この時点で酷い状況だったのか」

『毎朝の食事で両親は罵り合って喧嘩していたし、この時点で精神的に狂いかけてたよ。それを思えば泣けてくる。これも君がアーネベルベ令嬢を見捨てなかったからだね』


 どうやら俺が想像した以上に、テスラの時は酷い惨状だったようだ。


 本当にこいつは苦労しまくってるな……。


「そういうわけで俺は学校に向けて準備をしようと思う」

『準備? 現時点で君の魔法は学校レベルなんて超えてるよ? 必要ある?』

「もちろんあるさ。学校の歴代最強の卒業生になって、大暴れしたいからな!」


 俺は天才とチヤホヤされるだけでは足りないのだ。


 もっと凄いと、天才を超えた天才だと言われたい! 褒められて褒め殺されたい!


『えぇ……』


 テスラはドン引きしているが知ったことかよ!


 俺は稀代の天才として褒めたたえられなければならないんだ! なにせ俺はテスラの身体を借りているんだから!


 俺がテスラになっている以上は、テスラ・ベルアインの名に泥を塗るわけにはいかない!


 それと他にも理由はあるが、これはテスラに言うつもりはない。


 …………魂を司る魔法の勉強をしたい。そうすればいつか、テスラにこの身体を返すことだって出来る。


 身体を積極的に返したいわけではないが、現状ではそもそも返す方法すらないのだから。


 今の俺は魂を操る魔法は使えない。あの時は本当に必死だったから発動できただけだ。


 そして次にできるかは分からないので、備えておく必要はある。


 またテスラの身体が死にかけた時のために。


「さてまずは入学式の試験の調査からだな! 教師よりも強いド派手な魔法をぶっ飛ばして、大騒ぎになりたいからな!」

『本当にいい性格してるね君』

「褒めるなよ照れる」


 今後がどうなるかは分からない。


 だが俺はテスラの身体を借りた身として、彼に恥じないように生きて行くつもりだ。


 自分の願望は優先するけどな!


「さあ行くぞ! もっとチヤホヤされるために!」

『勝手に行けば?』



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これで最終話となります。

続きを書こうと思えば書けました。でもこの作品の個性はテスラ犬で、その件がある程度綺麗に片付いたので完結しようと思いました。


最近は話の個性に注力していまして、この作品だからこそ書ける話は終えたので。

本当はカクヨムコンのために書き始めたんですけどね!

他の作品で出さないと……。



そういうわけで最後に新作を宣伝させてください。


新米女神ちゃんは異世界転生を司る神様になって、めちゃくちゃな世界を創るようです ~すぐ死ぬ転生者を救うためにご都合主義を考えよう。初期地点に武器を置いたり王城に召喚したりで~

https://kakuyomu.jp/works/16817330665901489486


話はだいたいタイトル通りです。

最近のコメント欄で、新米邪神ちゃんと言われまくっていること以外は。

やや特殊なお話ですが見て頂けると嬉しいです。

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