第12話 リヴァルとのティータイム(後編)
「招待するのは構いませんが、結婚に関してはお兄様の意志にお任せしますからね。私は関与しませんよ」
私はしぶしぶといった顔でリヴァルの申し出を受け入れました。
「ありがとう、アレンディナ」
偶然を装ってお兄様との距離を縮める気満々。
招待する日はお兄様も家にいる日を選ばなきゃってことでしょうね。
「ところでアレンディナ。エストゥードのこと聞いてる?」
リヴァルが話題を切り替えました。
そういえば、あのパーティ以降何も聞いておりません。
家の者たちも私に気を使ってか、エストゥードの話はほとんどいたしませんから、その間に何かあったのでしょうか?
「エストゥード王は自治をあきらめて、帝国の執政官の派遣を依頼したそうよ」
「えっ?」
「もうすでに一名派遣されて王宮に入ったそうよ。商人の家の出らしいから、改革案として、王宮の一部をホテルやレストランに改築したり、エストゥードの特産品の加工や売り込みに力を入れるのだとか」
執政官とは帝国から属州に送られる官吏であり、その地の最高責任者となる者です。
血筋でものを言う貴族と違って、執政官は有能であれば下級貴族でも平民でもなれる機会があるので、高位貴族以外の者の出世の道でもあるのです。
「まあ、でも、そんなやり方をエストゥードの者たちが受け入れるのかしら?」
「エストゥード王は執政官がつくやいなや、彼に国王の私室や事務室を明け渡し、これからは誰が一番偉いのかをはっきりお示しあそばされたそうよ」
「王が受け入れても王太子のヴァカロはうまくやっていけるのかしら?」
「あら、気になるの?」
「ええ、エストゥードが今後どうなっていくかは」
「そっち!」
当然でしょう。
わざわざ新年のパーティを使って、あんな派手な立ち回りの後、婚約破棄の宣言をしたのは、それ以前に起こった帝国を代表する公女の私への無礼を、倍返し以上で上書きするためです。
それをやったことで軍事行動とか穏やかでない状況を治めたというのに、あの方が変にごねられて帝国とエストゥードがまたもめたら、何のために恥を忍んであんなことをしたのか。
「もう父王が有無を言わせず、元王太子に状況を理解させるために、他の領地へお預けとなったわ。実はプレトンシュの領地なんだけどね。うちは湖が多く点在していて夏の避暑には多くの人が訪れる場所だから、そこで観光客をもてなすすべを覚えさせることにしたのよ。あの方見た目だけはとてもいいから、元王太子が先頭になって客をもてなすお城ホテル及びレストランなんて評判になると思わない?」
「あの、リヴァル、それって……」
「実は執政官から相談を受けて、ヴァカロ様の教育を我が領地が引き受けたってわけよ」
「そういうことだったのですか。まあ、正直言ってあのままヴァカロ様に後を継がせていたら、私の件がなくてもいずれ帝都ともめるか、あるいは民の不満が爆発するか、どちらかが起こりうる可能性が高かったですから、国王様は英断をされたとは思いますわ。それにしてもまさか……」
「ふふ、彼が改心して良いお城ホテルの従業員になったらそれこそ観光の目玉になるわ。元王太子が自らエストゥード料理をサーブするなんて」
「ソムリエか給仕でもやらせるつもりなの?」
「今はいろいろやらせて素質を見ている段階。うまく成長して人前に出られるようになったあかつきには一緒に彼のおもてなしを受けにに行きましょうか?」
「謹んでお断りしますわ」
「あら、面白くない」
もう完全に面白がっているでしょう、リヴァルは。
わが帝国は岩塩もとれるので、それほど海に面した領地を渇望することはなかったけど、半島の付け根のエストゥードは海産物も豊富ですし、観光とは確かにいい考えです。
半島との交易だけでなく、土地の魅力そのものをアピールした商人出の執政官らしい発想でしたわね。
でもいくら何でも気まずいですわ。
それに私には、公爵家を継ぐための婿取りや、兄の即位と結婚問題、考えることがやまずみですの。
「陰ながらエストゥードの繁栄をお祈り申し上げますわ」
少しつまらなそうなリヴァルをちらりと見やった後、私は紅茶の香りを楽しむことに集中いたしました。
そう、エストゥードとの縁はこれでおしまい。
何十年か後にわだかまりなく訪れることができることを期待しましょう。
☆―☆―☆―☆-☆-☆
【作者あとがき】
最後まで読んでくださってありがとうございます。
リヴァルの語源はフランス語で「ライバル」です。
このあと主人公やリヴァルの結婚話がどうなったかは想像にお任せいたしましょう。
よければ☆評価お願いいたします。
ヴァカロ王太子のおもてなし ~目には目を、婚約破棄には婚約破棄を~ 玄未マオ @maokuromi
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