ビー玉きらり。-2

週末、私は高校の制服に身を包み、あのビー玉の入った大きな瓶を抱えて駅前のスクランブル交差点にいた。

週末に買い物に出ている人が多いせいか、普段より混み合っているように思える。

しかし、私にとってはまたとない好機だ。

私の願いを叶えるためには、最高の舞台が整ったとも言える。


あれから、週末を迎える前に瓶の中のビー玉は一杯になった。

週末まで待ってしまったので、瓶の口からビー玉が溢れて蓋が閉まらなくなってしまったほどだ。

でも、「願いを叶えるなら週末」そう決めていたから、私ははやる気持ちを抑えながら週末になるのを待ちわびていた。


「さあ、それじゃあ始めようかな」


これは私の最初で最後の願い。

こんなことができるのも、きっと人生で一度きりだ。

それならこれまで「都合のいい子」でいてやった分、存分に今の時間を楽しもうじゃないか。

私はそんな気持ちで一杯になりながら、スクランブル交差点の中心へと歩みを進めた。

スクランブル交差点の中心に立つと、前後左右からたくさんの人が私を追い越しては思い思いの場所へと向かって歩みを進めていく。

こんな素敵な場所で私の願いを叶えられるなんて、と、高揚感を抑えられなかった。


私は持っていた瓶のふたを開けると、中に入っていたビー玉を地面へとぶちまける。

バラバラ、ジャラジャラと大きな音を立てて地面へと広がっていくガラス玉とその音が、私を祝福しているように感じて歓喜した。

歩いていた人たちが驚いて私やガラス玉を避けるように歩いていく中、私はガラス瓶の中に残っていた、ビー玉で隠されていた「それら」を手に取った。

バンバン、ドドドド、と乾いた銃声が辺りに響き渡り、人の喧騒で騒がしかったスクランブル交差点が一気に混乱と悲鳴へと変わっていく。

アリの子を散らすように私の周りから逃げまどう人たち。

私は左手にハンドガン、右手にガトリング銃を持って、その逃げまどう人たちに正面も背中も構わず、無差別に手当たり次第銃口を向けた。

これがずっと私がやりたいと願ってきた唯一のこと。

「都合のいい子」を求めて私の自由を奪ってきた社会への、せめてもの仕返しの意味を込めて。


「何をやっているんだ!銃を下ろしなさい!」

「ひとまず落ち着きなさい!」


通報を受けて駆けつけてきたのだろう警察官が、私から銃を取り上げようとする。

それでも私は怯むことなく、警察官にすらも銃口を向けた。

別に私は落ち着いていないわけじゃないの。

至って冷静に、「私をいい子に仕立て上げた社会に復讐がしたい」というその意志だけで動いている、ただそれだけなの。

銃声とともに、地面に倒れて苦しむ人たちがどんどん増えていく。

ねえ、痛い?痛いよね?

でも、私がこれまで我慢してきた心の痛みは、1発の銃創じゃ足りないくらい苦しいものだったのよ。

きっと私のこの行動は、明日の新聞の一面を飾るのでしょう。


タイトルはそうね。

「『優等生』だった女子高生、休日のスクランブル交差点で狂気の銃乱射事件」とでも書いてくれれば満足かしら。


そのうち警察の応援も駆けつけてきて、私が持っていた銃弾も尽きる。

部活すらもしていなかった私の筋肉のない細い手足は、呆気なく取り押さえられ地面に押し付けられた。

夏の日差しに熱せられたコンクリートの熱を肌で感じながら、私は言葉で言い表せないほどの高揚感に満たされていた。


「君は高校生だな!?どうして一体こんなことをした!?」

「どうして?面白いことを聞くのね。ただ、やりたかったから。それが私の唯一の願いだったからよ」

「詳しい話は署で聞かせてもらう!着いてきなさい!」


あーあ、楽しい時間ももうこれで終わりなのね。

少年法は適用されないだろうから、きっと私が警察署から出てくることはないでしょう。

親も、教師も、同級生たちも、私がしたことに驚き恐れおののくがいいわ。

それが私に押し付けてきた、「都合のいい子」への代償なのだから。

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ビー玉きらり。 柊 奏汰 @kanata-h370

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