ビー玉きらり。

柊 奏汰

ビー玉きらり。-1

ビー玉きらり。

私は今日も、学校から帰宅すると机の引き出しからビー玉を取り出し、机の上に置かれた瓶に小さなビー玉をつまみ入れる。


「あなたって本当にいい子ね。あなたみたいな優等生が学級委員を務めてくれているなんて、担任としてもとても助かるわ」

「委員長、まだ残って勉強してるの?いい子だわ~」

「ねえ委員長、今度の休みなんだけど一緒に遊びに行かない?あ、生徒だけで街に出るのは家の人がNGなんだ?それならしょうがないね。委員長本当に親の言う事とか校則を守れるいい子だよね~」

「おかえりなさい。もう部屋に入るの?ああ…宿題があるのね、言われずにやるべきことをやってくれるいい子で本当に助かるわ」


親から、教師から、同級生から。

優等生だいい子だと言われた分だけ、ビー玉を1つ瓶の中に入れていくという自分だけのルール。

決して小さくはない瓶に毎日少しずつ貯められたビー玉は、今では蓋に近いところにまで一杯に詰まってきている。


「今日は4つかぁ。ふふ、順調に貯まってきたなぁ…」


私は悦に入りながら、瓶の中に貯まったビー玉を太陽の光に透かして眺める。

赤、緑、オレンジ、黄色…様々な色の入ったガラスに光が差し込んでキラキラと輝いた。

瓶に入っている大量のビー玉は、所謂私がずっといい子に過ごしてきた証だ。

この瓶がビー玉で一杯になった時、これまで大切に大切にしまってきた自分の願いを1つ、誰にも邪魔されることなく叶えることに決めている。


私が優等生のいい子であることを演じ始めたのは、もう随分と昔のことだったような気がする。

小学校入学の頃か…いやもっと昔からだ、自宅では親の言うことを素直に聞くいい子であることを求められた。

保育園に入園して家庭以外の社会というものを知ってからは、社会で上手く人間付き合いをしていくために、先生から言われたことを素直に聞くいい子を演じ続けた。

同級生から見ても、私は校則を守り誰にでも当たり障りなく中立の立場で居続ける「同級生の中のいい子」という立ち位置だった。

高校までエスカレーター式の女子中学校に入ってからは、毎年学級委員に立候補して自ら模範的な生徒であり続けた。

いつしか私の「いい子でありたい」と思い続ける願いは、周りの人間からも「この子はいい子だ」と思わせるのに相応しい偶像を作り出していったのだ。


しかし、いい子であることを続けることはとても大変だった。

昔は「先生の顔色を伺ってばかりのいい子ちゃんだ」とか、「ちょっとした校則の抜け道を見つけて遊ぶ楽しみさえも見つけられないような可哀想な奴だ」とか、同級生には散々に馬鹿にされたことがある。

でも、私には「いい子でいる」という選択肢しかなかった。

幼いころから母親から言われ続けた、「あなたは本当にいい子ね」という言葉が、私を「いい子でいなければならない」という呪縛に縛り付けていた。

同級生たちも私がいい子ちゃんキャラじゃなくただの1人の人間なのだと分かれば、「校則を守る委員長タイプ」という別のベクトルで私を認めてくれた。


だが、いつからか私の「いい子でいる」という呪縛は、私自身の生き方を縛り付けるようになってしまった。

高校生になって、大人の言う「いい子」は、口答えをせず素直に言うことを聞く「都合のいい子」だということに気が付いてしまった。

だから、自分を押さえつけて大人の言う「都合のいい子」になり切って頑張れた時にだけ、ビー玉を貯めていくという自分にとってのご褒美を作り出したのだ。


「このまま行ったら週末には貯まり切るかなあ…。週末のスクランブル交差点。うん、最高じゃない」


私はその週の週末に、私の願い事を叶えることを決意した。

場所は駅前のスクランブル交差点。

私の願いを叶えるのに、これ以上に最高の舞台はない。

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