🎇2 序章

再演 能面

「──ㇹㇱぃな」


 声がする。彼は目を開けた。聞こえてきた声が良くないものだというのは理解していた。だからこそ、盗られてはいけないものを必死で守り、隠して飛ばした気がする。

 だが、変わりに何かを取られてた気がし、彼は目を開けた。見覚えのない天井に彼は身を起こした。

 周囲を見回す。

 白い壁紙にフローリング。天井の照明器具や機械や携帯をみて、彼は首を横に傾げた。見覚えのない部屋だ。彼は腕を組み、不思議そうに部屋を見ているとドアが開く。


「おーい、なおくーん。いつもより起きるの遅いぞー」


 聞き覚えのある声に、彼は首を横に向ける。


「茂吉。なんだ? その異様な格好は」


 男性は肩甲骨まである濃い茶色の髪をハーフアップにまとめ、ヘアバンドをしている。ジーパンとTシャツの身軽な格好だ。現代でも珍しくない姿に、茂吉という男性はおかしそうに笑った。


「直文、珍しく寝ぼけてるのか?」

「……寝ぼけ? 俺は一切寝ぼけてないが」


 不思議そうに言うと男性は目を丸くしていた。


「……おい、直文。お前、表情……」

「表情?」


 相方の言葉に言われ、直文は疑問をぶつける。


「俺の表情は常に無表情だろ。それより、ここはどこなんだ? 茂吉」


 放たれた言葉は、茂吉という男性を驚かせるのに十分であった。

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