ex 任務お疲れ様 第六回桜花反省会
「任務お疲れ様、第六回桜花反省会。というわけで、一杯どうだ?」
「……何が一杯ですか。任務もなにもないでしょう。ばかぼく」
居酒屋のカウンター席にて。啄木が徳利を手にしており、安吾は不服そうにお猪口を手にしていた。近くにあるイルカの肉をタレで焼いたものがつまみとしておいてある。
いつの間にか安吾に日本酒が頼まれており、つまみや料理なども用意されていた。来てカウンター席に座った瞬間に、とっくりとお猪口を出されたため、啄木が事前に予約したのだと把握した。
ここは組織が運営している居酒屋。組織の半妖だけでなく、神や妖怪も来る。今いる客は人の姿をしている半妖だけ。カウンターの調理スペースに居るフリルエプロンを付けた長身の男性はここの店主の一人である。その店主に啄木は声を掛けた。
「とーそん先輩。こいつにこごみの胡麻和えを一つ」
「……わかった」
落ち着いた低い声が響くと、奥にある調理場のスペースに行く。そのタイミングで安吾が声をかけた。
「ありがたくいただきますけど、啄木。あさがおさんを勝手に僕の住処にいかせたことは、許してませんよ」
「許さなくていいってこれは俺の独断でたかむらさんも許してくれたことだしな」
組織の上司も許していたことを知り、拍子抜けてすぐに安吾は舌打ちをした。
「……あのクソ上司。どおりで貴方の準備がいいと思いましたし、あのとき順調だなと思いましたよ」
「今回ばかりは、上司が協力的なのか救いだったな」
笑っていう啄木に安吾はシニカルに笑う。
「おや、それはあの人にとって役立つ駒が少なくなるからでしょうか」
「いや、筋すらも通さないやり方が気に食わなかったからだってさ」
言われ、安吾はげんなりとした。ちゃんとした別れもせず、記憶も消さず、中途半端なやり方なのが大きかったらしい。安吾自身もわかっておりお猪口のお酒を一口飲み、不満げに話す。
「……確かに一凛さんを傷付けたのは良くなかったですが……少しだけでもいいじゃないですか」
思い出の人になりたかったというのが本当らしく、啄木は呆れた。
「お前本当に馬んごーだな。普通の人間の人生は俺達よりも短い。しかも、世の中いつ死ぬかなんてわからないし、北斗星君と南斗星君のような寿命を決めるような世界ではない。見守るなら、ちゃんと見守らないと。そのつけでお前は首輪をつけられたんだからな」
相方が自身の首を人差し指でつついたあと、安吾の首を指し示した。安吾は自分のつけている勾玉のネックレスを出して見た。
つければ、運命共同体。すなわちリンクする仕様であり、片方が死ななければ、つけている人物も死なない。二人共に心中すれば外れる方法の一つになりえるが、安吾はするつもりもなくさせるつもりもない。もう一つの外す方法は倫理観と道徳観というものが問われるため、安吾は頬を赤く染めた。
「……首輪……ですか」
「……えっ、安吾。お前、隷属の趣味とかあったの?」
ドン引き相方に安吾は睨みつける。
「そんなわけないでしょう。ただ……彼女にも首輪をつけているようなものだと思うと、なんかいいなと思っただけ」
恍惚そうに言う安吾に、啄木はツッコミを入れた。
「変態。変態のへんごーだな」
「僕の名前は安吾ですよ。……どれだけ増えるのですか、僕のあだ名は」
「俺達が生きている限りだな」
「……生きている限り、ですか」
ため息を吐く彼に、相方はにこやかに笑う。
「けど、俺はお前がここにいる理由ができて良かったと思うよ。久世さんが生きている限りは、お前が幸せになれるからいいよ」
啄木は麦茶の入ったコップを手にして飲む。耳にした内容に安吾は真剣な顔で言い返す。
「僕としては、貴方も幸せな思いをしてもいいかと思いますが?
僕は啄木自身が幸せから遠ざかろうとする姿勢、気に食わないです」
「そりゃどうも」
安吾は不満げにため息を吐き、お猪口を相方の前に出す。
「反省会と言いますが、これは僕の帰還を祝うものなのでしょう?なら、祝ってくださいよ。そうしてくれるなら、今だけはお小言は言いませんよ」
「じゃあ、お言葉に甘えて」
相方の言葉に啄木は苦笑しつつ、空いているお猪口に酒を注いでいった。
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