🌅1章 終章
ep これからもよろしく
自己紹介をし終えたあと、一凛は疲れにより安吾に受け止められながら眠る。
目が覚めたときは家のベッドの上にいた。流石に遺書をこのままにするのは不味く、彼女は遺書を片付けようとリビングに行った。
片付ける前にその遺書を運悪く、早めに帰ってきた父親に見つかってしまう。
遺書の中身は既に読まれ、父親はこの世の終わりとも言える顔をしている。その最中、ボロボロの服の姿で現れた娘を見てどう思うか。十文字以内で答えよ。答えは泣きながら怒るである。
正座をさせられ、一凛の父親は遺書やボロボロの服について問いただされた。どこまで話そうかと考えながら誤魔化して話した。
怒られたものの、久々に親として叱ってくれた父親の行動が嬉しかったと彼女は言わない。危険なことをしないと約束しつつ、父親はこの件を機に単身赴任をやめるらしい。一凛にとっては嬉しいが、逆に心配をかけさせてしまい申し訳無かった。
父親は単身赴任先にある荷物をまとめるために、翌朝には家を出るという。単身赴任の後片付けが終えるまで、父親のメールと電話がしつこかったのは言うまでもない。
始業式を迎える翌朝に手紙が届いた。住所とともに書かれた久世一凛の書かれた宛名。文字からして安吾からの手紙だ。一凛はむず痒くなりつつ、部屋に戻って久々に中身を出して手紙を読む。
恒例の占いの手紙はあるが中身を追っているうちに、彼女は苦虫を噛み潰す顔をした。書かれている内容がほぼ怒っているものだからだ。
安吾からも怒られる要因は遺書である。親しい人間が知れば当然怒るだろう。手紙には土日に会おうと書かれていた。彼女は土日が来るなと思いつつも、怒られる心構えをしておこうとため息を吐いた。
──土曜日の朝。いつものように千木のモニュメント近くで安吾は待っていた。服は新しい春服を新調したのかと脳天気な思考に走って見るものの、腕を組んで仁王立ちでいる姿は変わらない。
笑っているものの、雰囲気はピリピリとしていた。姿が見えた瞬間は去ろうかと思ったが、逃げられるわけないと一凛はわかっていて彼の前に来た。
「……おはよう、安吾さん」
「ええ、おはようございます。まず、僕から二言」
微笑むのをやめ、険しい顔で一凛を見つめる。
「僕の知らないところで、もうあんな危険なことはしないでください。死に行く真似も許さない。いいですね?」
「……はい」
真剣に言われ頷くと、安吾は頬を指で掻きながら苦笑した。
「僕もこれ以上はいいません。己のしでかしたこともあって、人のこと言えませんから」
安吾のしでかしたことや一凛の行動を比べるのはおかしいが、やってることは相手を傷付け悲しませることに変わりない。一凛もこれ以上言及しようと思わず、彼の言葉に同意しかけたときだ。
「……ところで……一凛さん」
「うん? どうしたの?」
声をかけられて顔を向けると、安吾は見たことないくらい顔を赤くしていた。彼女はキョトンとすると、彼は口を押さえながら恥ずかしそうに聞く。
「あの、その、ネックレス。外れません……よね?」
「うん、外れないけど。安吾さんのは外れないの?」
「……外れないどころか、外そうとすると電流を喰らいます。組織の半妖のみの仕様でしょうね。これ」
思わぬ仕様を聞いて彼女は驚くが、彼が照れているのはそれではない。安吾は恐る恐る声を震わせながら再度聞いた。
「すみません。じゃあ…………外す方法は知っているのですね?」
長い間をおいて、安吾に問われた。ネックレスの詳細を一凛は聞いており、当然外す方法についても知っている。外す方法の知っている是非を聞かれ、一凛は安吾と同じぐらいに顔を赤くした。
しばらく沈黙した後、彼女はゆっくりと首を縦に振る。
「……はぁぁぁ……どんだば……」
聞いた瞬間、安吾は脱力したように膝を曲げて両手で顔を隠した。知っているとは思わなかったらしい。聞かされた瞬間、一凛はしばらく硬直したもののなんとか吹っ切って引き受けた。
一凛は顔を横に逸らして照れている。
「……友人として助けたいとも思ったし、友人以上に大切だって思ったから安吾さんを連れ戻したんだよ」
「……えっ? それってどういう」
顔を上げて驚く彼に、一凛は手を差し出す。
「ほら、安吾さん。立ち上がって! せっかくの休みでしょう?
案内したい場所とか話したいことたくさんあるだから、ね」
照れを明るい勢いで誤魔化しながら笑う。流石にこれ以上は聞かれるわけにいかない。彼に対する抱いた気持ちは、少しずつ育んでいけばいいと一凛は考えていた。安吾はその手と彼女の姿を見つめ、むず痒そうに微笑みながら手を取る。
「……ええ、はい。いきましょう」
安吾は詳しく聞かずに、手を取って立ち上がった。聞かないのは、気持ちを読んだうえでの配慮なのかどうか。それは二人のみぞ知る。
一凛は立ち上がった安吾を引っ張って階段を降りていく。
早くと急かす一輪に、引っ張られて慌てる安吾は何処か嬉しそうだ。階段を降りていき、二人は近くにあるバス停のバスに乗る。私鉄のバスは二人を乗せて、道路を走っていった。座席に座りながら、握られた手はしっかりと強く繋がっている。
二人の物語は始まったばかりだ。
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