5 明かされなかった話2
啄木は話を続ける。
「人殺しを好まない半妖が大半だとてし、やらざる得ない。例え、前世が悪でも生まれ変わる前に善良さを入れて混ぜられ、健全な人の精神を持つ半妖として生まれ変わる人の部分を持つが故に苦しむ。俺達は死んで生まれ変わっても、俺達であり続ける。俺達の存在そのものが自身への刑罰で罪人の証。
それが、俺達の組織『桜花』の半妖のあり方だ」
話され、彼女の中から怒りが湧き上がる感覚があった。安吾が道具と一凛は露わにしながら話す。
「……そんなの、ないです。自分で自分を苦しませるなんておかしい。おかしいじゃないですか。馬鹿なんですか」
「そう馬鹿なんだよ、俺達は」
断言し、一凛は言葉を失った。すぐに認められると思わず、衝撃を受ける。そんな彼女を知らず、啄木は話を続ける。
「元から罪人だし人を殺している。元から久世さんたちとは違う。他者に褒められても自分達の行いから良いように思えない。自分の価値を自分であまり見いだせないのが、俺達『桜花』の半妖だ。俺達と久世さんとのここに居る前提が違う。変えられないし、変わらない。だから、馬鹿なのは間違いない」
彼は自分についてよくわかっている。何かを言おうとしても彼女は口を閉じた。立場や存在をよく理解しているからこそ、相手に何もできない。何もなし得ないのかと思ったときだ。
「でも、誰か一人だけでも見てもらえる。居てもいいって言われるだけでも、救いになる。だから、久世さんのような存在は俺達組織の半妖──いや安吾にとって、とてもありがたいんだ。久世さんは何もしてないわけじゃない。安吾は久世さんから貰ったものがあって救われたから守って助けたんだ」
救われていると聞き、一凛は啄木の顔を見る。彼は嬉しそうに笑っていた。
「あいつは友人の人間なんて、作る機会はそうそうないんだ。あいつ自身の在り方がそうさせている。俺としては、君が安吾の友人になってくれて嬉しいんだ」
救ったとは思っていない。逆に救われているばかりだ。だが、一凛の知らないところで安吾が救われたと知ったとしても、彼女は別れの仕方を許すわけではない。啄木の話の中では、気になる言葉があった。あいつ自身のあり方、即ち安吾自身の在り方が気になったのだ。
夕暮れや雲など曖昧と言えるが名があるものに羨ましく、犬神などには嫌悪を表すほどに嫉妬していた。
「……前に確定していないのが好きなのかと聞きました。そこで、安吾さんは核心を少し突いたと言っていましたが……安吾さんの在り方とは……何なのですか?」
聞くと啄木は目を見張り、考えるように黙る。数分黙考したのち、啄木は深い溜め息を吐いた。
「……あのバカはそこまで気付かれていながらも突き放したのか」
啄木は真剣な面持ちで聞く。
「久世さんは龍や天狗などの妖怪は知っているよな。四神や麒麟、白沢などの名前は聞いたことは」
「聞いたこと、あります」
四神や麒麟、白沢などはアニメや漫画。占いの本でその名前は見たことある。麒麟などはお酒のメーカーに使われており、知っている。
また質問をされた。
「では、『
「あまのさく……? いいえ、天邪鬼とかは聞いたことありますが……」
天邪鬼という言っている言葉とは性格も表す。本心とは逆の行動や言動を言う人であり、捻くれている人を言う。また悪鬼のこと言うこともあり、仏像が踏みつけているのも天邪鬼だと言われることがある。中では人の心を察して口真似などで人をからかう妖怪と、地方では言われていたりする。
だが、『
「天邪鬼は天探女から転じた言葉とも言われていたりするが、天逆毎という存在が天邪鬼や天狗の祖先とも言われている。天逆毎は『
口や文字で言えば凄い存在だ。けど……ふむ、そうだな。スマホは持っているかな?」
「持ってますけど……」
「悪い。持っているなら、天逆毎を調べてほしい」
一凛は不思議に思いながら、調べてみた。
天逆毎という女神について、まとめたページがある。
簡易的に言うと『スサノオの猛氣から生まれ、性格も最悪で天邪鬼のような性格。天探女と同一視されるとも言われる。力も強く、顔にある鼻も長い。天狗や天邪鬼の祖先と言われる』と書かれている。『
だが、それだけであった。一凛は『
「あの……『
「書籍でも情報は少ない。だが、安吾はその血を引く」
言われ、一凛は疑問が湧く。スサノオから生まれた女神から生まれたのであれば、たしかに安吾の引く血は強力である。しかし、そうではない。一凛が気になったのは、この『
「あの、麒麟や白沢などは伝承や謂れがあるので情報はあります。でも、なんで、『
確信とも言える質問であった。啄木は複雑そうな顔をする。
「……天狗名義考という文献には先代旧事本紀について、その2つの神が乗っているとされている。だが、天狗名義考のあるは先代旧事本紀に天逆毎と『
「……それが、なんなのですか?」
嫌な予感がした。一凛は間をおいて答えると、啄木は一息吐いてから答えた。
「先代旧事本紀大成経は複数の学者から偽書とされているからだ」
偽書は二つの意味がある。すでに滅んだ作品のもの。そして、作品を原本のように内容を偽って作成した本を言う。啄木の言うと偽書とは後者を意味した。
「天逆毎は、天探女の荒御魂とも見れるし同一視もされる。だが、『
偽書とされる先代旧事本紀大成経に乗っている。それが何を意味しているのか、怪異に遭遇してきた彼女はなんとなく察してしまった。
「創作怪談、いわゆる洒落怖や都市伝説の怪異と妖怪。怪談の妖怪はどのように生まれるか知っているか」
聞かれ、一凛は黙ったまま頷く。創作の怪異は人の認知度から生まれる怪談話が本体のもの。筍のようなものだと安吾は言っていた。安吾が雲や夕暮れに羨ましさを感じた理由に近づいていた気がし、彼女は息を呑んだ。
安吾は占いなど、結果が確定しないものを好んでいる。確かに、一凛は核心は少しついていた。だが、聞きたくない。一凛は話を聞き考えているうちに、核心に近づきたくないと考えていた。しかし、聞かなければならない。聞きたくないという思いに反して、その答えを啄木は口に出していく。
「『
人工物。本当に作られた存在。聞きたくもない答えに一凛は奥歯を噛んでいると、啄木は追い打ちをかける。
「本当に『
一凛は言葉を失い、彼の話を聞き続けた。
「あいつ自身が生き物の悪意の境界の役割でもあるがゆえに、己のバランスを取るために表に出てくることもある。
総括すると、安吾は『生物の悪意との境界のようなものであり、世を乱すためにあまり表に出てはいけない作られた存在』の血を引くように作られた。これが、あいつの在り方だ」
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