🌅1-2章 こんにちは続き 双方の交流

浦島太郎の歩みは少しずつ

「あんごー。いこう、こんぺいと、ぜんぶもっくんにとられる」


 拙いながらも声をかけてくる麒麟の半妖の少年。女に見間違うほどに愛らしいが、成長すると眉目秀麗な男性となる。


「え〜、言いがかりだよ。なおくんひどい!」


 明るく笑う隠神刑部の半妖の少年は、その少年に肩を組む。なおくんと呼ぶ彼は童顔ではあり、成長しても童顔の要素は消えないが男らしさはある。

 背後には稲成空狐の半妖の少年は笑っていた。


「ふふっ、図星のくせに何言ってるんだか」

「まったく、また君は何か企んでるね? 次やると先生に怒られるよ」


 隣りにいる少年の彼は相方で、狐の少年に呆れていた。狐の少年はまだ可愛いいたずら小僧だが、成長すると厄介なイケメンと化す。

 彼に気付いて、安吾の相方が声をかけた。


「安吾。どがんした? 急いでいかんば……」


 まだ幼い頃故に安吾と同じように方言が抜けきれていない白沢の少年。彼は誰よりも逞しくかっこいい男性になると、安吾は自負していた。自慢の相方に心配そうに言われる。少し落ち着いてから行くと誤魔化し、心配されながらも相方は五人についていった。

 五人は強い神獣やそれに等しい血を引いて、自分と等しく作られて人から生まれた。ただ一点違うのは、彼らの血を引く存在と己の血の引く存在。それだけだ。


 羨ましいと何度思ったことか。妬ましいと何度も思ったことか。

 曖昧がどれだけ不安定なのか。確定がどれだけ安定しているのか。

 天邪鬼の特性はあったとしても表面に発露しない。天狗の祖先とも言われるが、中国や日本の天狗、どちらとの特性を持っているが定かではない。


 五人を見て、安吾は拳を握る。


 認められ、実在していたと記録にあることすらも羨ましいと。

 相方である白沢の彼は幼い頃から自分の異質さや心情に知って、事あるごとに気にかけてくれる。安吾は相方である彼の過去を知るため、互いに心配で気にかけていた。

 五人が羨ましいだけではない。

 安吾は空を見つめる。

 青い空と白い雲。光に影。触れようと思っても触れられず、けれどあるもの。安吾はそれを見て思っている気持ちを口にする。

 羨ましい、妬ましいと。



 安吾は目を開け、顔を上げる。

 机の上で腕に顔を埋めて、寝ていたらしくしまったと我に返る。周囲は安吾が寝ている様子を気にしている感じはない。だが、昼寝をする場所でないことは周囲を見ても明白であり、慌てながら安吾はドリルのページを捲った。



 西暦2010年。平成22年7月中旬の金曜日のとある昼の日。三連休前日である。鷹坂安吾は草薙神社の近くにある県立中央図書館で、漢字の練習や調べ物などをしていた。

 漢字の練習ノートではすでに中学三年生の習う漢字が書かれ、字の書体も現代に合わさったものになってきた。『わんこ』と別れて以来、手紙でやり取りしているお陰か上達してきていた。

 家でやらない理由は、自分の家では同居している仲間たちがバタバタとしているからだ。

 仲間の二人は今回名無し事件を追っており、もう一人は機をうかがうための準備。相方は慌ただしく仕事をしている。ゆっくりと勉強しようにもできず、手紙に書いたら『わんこ』に提案されて、図書館で勉強をしているのだ。

 未だに機械慣れしていない安吾にとって、図書館は救世主であった。

 インターネットで検索するよりも活字からの情報のほうが取り入れやく、図書館で歴史の流れや文明、経済や流行などを知っていった。過去の新聞も見れるのも楽しく、図書館は気分転換になる。本部の図書館もいいが、地元の図書館の方が人の流れがあり人が解る。

 近場にある大学の学生なども利用していた。図書館は基本的に静かにするというのが決まり。図書館の静けさがどれだけ勉強に向いているのか理解する。そして、安吾は図書館を気に入る。時間ある時は、図書館巡りをしてみたいとも思っていた。

 漢字のドリルはある程度終えて、安吾は背伸びをした。

 ドリルとノートを積み重ね、文房具も筆箱にしまう。勉強はおしまいであり、ドリルとノートが入るほどのバッグにしまう。バッグは土日の練習のときの買い物に『わんこ』が選び、安吾が購入したものだ。

 思いの外気に入っており、彼はバッグを見てはニコニコとする。バッグの中には花札の箱も入っており、色んな方法で『わんこ』に占いをする。意外と当たると彼女から良い評判をもらっている。彼女と会う日は、来週などの一週間を占ったりする。彼女から褒められるのを思い出し、安吾はニコニコからニヤニヤに変えた。

 だが、そうではないと彼は我に返る。テーブルを簡単に綺麗にしたあと椅子から立ち上がった。

 調べ物をするのが本当の目的なのだが、図書館で探すのは大変だ。パソコンや図書館にある機械などで検索して探すのが早い。上記に言った通り、彼は機械慣れしていない。それとなく関係しているものを五、六冊ほど手にする。

 テーブルに戻って、彼は早速調べものをした。本部でも合わせて調べ物をしようと、彼は本を読み込んでいく。




 閉館時間間近、安吾はバッグを手にし図書館を歩いて出ていく。難しい顔をしていた。情報はあったものの判断が難しく彼は腕を組む。


「……流石に地元の図書館だけでは判断材料は足りませんか」


 地域資料や該当するものがあっても、彼女の変化をもたらした妖怪を断定するには難しい。空を見つめ、彼はふぅと息をつく。


「お世話になっているのに成果を出せないというのは……キツイですね」


 手紙や土日の散歩や買い物のやり方ではあるが、彼女は色々と教えてくれている。電車やバス、自転車の乗り方。切符の買い方など。日常生活で必要なものをすべて教えてくれる。

 図書館通いのために、電車やバスを使おうとした。乗り継ぎにはなれているが、改札でピッと音を立てて使うカードを見た。ICカードを思い出し、安吾はニマニマとして空を見る。


「ぴっとするやつ、使うの憧れます。……と言っても、僕が使えるのはせいぜいこれですか」


 バッグから彼はカードを出す。バスや電車に使える消耗する磁気式カード。地元ではパサールカードとも言う。テレホンカードと言えばわかる人もいれば、分からない人もいるだろう。彼の手にしている五千円式の磁気式カードは発券機に通せば使える。改札の切符に近い使い方だ。しかし、時間が経つに連れて販売はされなくなり、未来ではもうない。

 カードは変えたばかりであり、まだ使える。安吾はため息を吐く。


「わって時代おぐえだなぁ……って、違います。違います。

普通に喋らないと。もー、油断すると出てきてしまうのやですねぇ……」


 首を軽く横に振り、安吾はカードをポケットに仕舞うと。


「!」


 遠くで乱れたものを感じ、乱れを感じた方向を見る。安吾も乗り降りしている草薙駅だ。私鉄と元国鉄があり、バス停もあった。乱れた方向を見つめながら、彼は真剣な顔になる。


「……今日は電車を使うのやめましょう」


 彼はいつものように風景の中に溶けて消えていった。

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