『とおりゃんせの常世信号』
皆さんは『とおりゃんせ』の曲を知っていますか?
歌詞の最初は【とおりゃんせとおりゃんせ】と始まって【七つの子のお祝い】や【行きはよいよい帰りは怖い】と言うやつのあれです。
音楽装置がある信号ではよく使われてますよね。青信号のときに『とおりゃんせ』や故郷の空と言った曲が流れて渡る。
知らない人は知らないでしょうが、信号機には擬音式とメロディ式があるのです。疑音式のかっこうや鳥の鳴き声がメジャーでしょう。メロディ式はだんだんと廃れていくようですから。
では、本題に入ります。
私の地元ではその『とおりゃんせ』ではなく、地元や県を象徴する曲が流れなのです。地元のメロディ式信号機というやつでしょうか。私の方ではよくありました。
地元に帰省している時に駅から出ると、交差点の信号機から地元のメロディが流れるのです。これを聞くと、ああ帰ってきたなと思います。地元で過ごしている間、朝の散歩を日課にして地元の何処が変わっているのか見ています。
そんな帰省して日課の朝の散歩しているときです。地元にしては珍しく、霧が出ていました。不思議に思って、近くの駅まで歩いていった時です。
駅の交差点……信号機の横断歩道の辺りから、急に霧が濃くなったのです。普通ではありえません。地元では霧がかかっていたとしても、横断歩道の奥の道や建物まで見るはずです。ですが、奥や近くの建物がわからないほどの濃霧が発生していました。信号機と横断歩道の白いラインと道路は見えますが、周囲はまるっきりわかりません。
普通ではありえません。はっとすると近くに中年の男性や小学生二人がいました。彼らはこの異常に気づいていないようです。私は声をかける前に、横断歩道の信号機が色が変わったのに気づきました。
信号機の色は青ではなく赤。立ち止まる人の形をした記号から発せられるはずの色が、何故か渡る人の形をした記号の方にある。いや、二つとも赤色を発しているのです。そして、そこに流れるのは、地元のメロディではなく最初に聞いた『とおりゃんせ』でした。電子音として流れる『とおりゃんせ』がより低くなったような感じです。
信号機の音楽自体はフルで流れるはずがないのですが、『とおりゃんせ』が全部フルで流れていたのです。私は呼び止めますが三人は気付かないまま、とおりゃんせが流れながら横断歩道を渡って白い霧の中に消えていったのです。
私も追いかけようとする前に、なにかに肩を掴まれました。
「あの、大丈夫ですかっ!?」
肩を掴まれて中学生に声をかけられた瞬間、我に返りました。気付くと、いつもの朝の駅の光景です。けど、私が止めようとした小学生と男性はいませんでした。……そして、しばらくて彼の行方不明がニュースとなり街中に広がったのです。
朝の駅の光景は何だったのか。それを知ったのは私は帰省を終えてからでした。
家に帰って、仕事場に戻って同僚に帰省して遭遇したことを話すと。
「それって、常世信号じゃない?」
と真剣な顔で話すのです。
同僚はオカルトが好きで詳しいのもあり、私の遭遇した常世信号について教えてくれました。
濃霧の中に現れる常世へ招く信号機と言われていて、とおりゃんせが流れる理由は昔から歌われてきた童歌ゆえに力を持っているから。また横断歩道は反対側の歩道を渡るためのものであり、信号諸共境を表すものであると。常世信号は場所が曖昧になるときに現れるものらしいのです。私の場合は、霧が出たことで条件が一致してしまい現れたのではないかとのこと。
ただし、この常世信号はスクランブル交差点と音がなる信号機だけに現れるらしく、見れて分かるのはごく一部の人間。わからない人間はただ飲み込まれていく。私は見てわかってしまったごく一部の人間に含まれたらしく……。何故常世信号と言われるのかは、当然その信号を渡った人間はそのまま戻って来ないからです。帰って来たとしても幽霊となって枕元に現れるかどうかぐらい……。見えている人物が声をかけて止められることもあるが少ないらしいのです。
……私が強く出ていれば彼らを救えたのかもしれません。同僚から話を聞き終えてそう思ったのです。
もし前と同じ機会に遭遇して、常世信号を渡ろうとしている人がいたら絶対に止めよう。今でも私はそう思っています。ですが、話をこう載せている現在まで『とおりゃんせの常世信号』に遭遇していません。皆さんももし話の中で同じように見えて遭遇していたら、勇気や力を出して全力で渡るのを止めてください。
お願いします。
『とおりゃんせの常世信号』
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