ep 10 後日談 『桜に幕』開け

 土日明け。『わんこ』はいつものように起きた。

 ベッドから身を起こして、いつものようき歯磨きと顔を洗う。『わんこ』は自室にある鏡を見る。自分の姿は変わらず黒柴のミヤコ。だが、安吾と別れた日からこの姿を見て憂鬱にはならなかった。少しでも自分の状態を知ってくれる人がいる。『わんこ』は自分の頬を触りながら、口を動かす。


「……ミヤコ、お母さん。絶対に、二人をやった妖怪を見つけるからね」


 自分の姿に戻るための第一歩として、彼女は母と愛犬を殺した妖怪を探すことにした。安吾も協力してくれるというが、具体的なことは聞けていない。だが、この先テストや受験もあり、学業も疎かにはできない。まず通う高校に目星をつけることにした。

 綺麗にし終えると、彼女はリビングに向かう。今日はご飯と昨日残った野菜の味噌汁を温める。目玉焼きを作って、一緒に焼いたウインナー二本を乗っけてご飯とした。

 お茶を湯呑みについで、手を合わせて食事の挨拶をしたあとはテレビを付ける。

 テレビがつくとニュースが流れた。


【各地で行方不明の事件が起きている中、今朝県内でも行方不明の事件が起きました。忠霊塔公園の近くに自転車を残して、それ以降見つかっていないとのことです】


 ニュースの事前情報の内容を聞き、『わんこ』はびくっと体を震わせた。行方不明になった女学生の名前が告げられ、忠霊塔の場所がニュースで映る。

 彼女たちの名前は今知った。知ったところで何かというわけではない。本当ならば、警察や先生など大人の彼らに全てを話すべきなのだろう。真実を話したところで、頭が狂っていると思われるのが関の山だ。超常現象に関わっている以上、黙っているしかない。そして、あの悪意を持った女学生たちは覚えている価値のない相手だ。

 捜索届が出されているとニュースは話している。息をつきながら、『わんこ』はテレビの電源をリモコンで切った。

 食べ終えて片付けたあと、制服に着替えた。洗濯物はし終えると、掃除も簡単にした。外に出て朝刊や手紙などないかを見る。

 靴を履いて玄関を出てポストの中を確かめると。


「えっ」


 彼女は目を丸くした。朝刊だけでなく、見覚えのない和柄の便箋もあったからだ。朝刊を出し、便箋も出す。切手が貼られており、漢字の文字は丁寧に書かれている。父親の名前だけではなく、あさがお様と横にも書かれていた。それを見て『わんこ』は誰が送ってきたのか気付き、すぐに家へ入る。

 玄関の鍵を締めて、便箋を開ける。『わんこ』はすぐに開けて手紙の中身を確かめた。ボールペンで文章はひらがなだらけである。その理由も手紙の中にあるが、下記はひらがなを漢字に変換して内容を出す。


【あさがおさんへ

お元気でしょうか? 元気でしたら嬉しいです。

まず最初に謝罪を。

本当ならば季節の挨拶をつけるのが作法でしょう。まだ僕にそのような技術はなく書けませんでした。またすべての文章がひらがなである理由は、僕の書く字は草書体という昔ながらの字になってしまうからです。便箋にある漢字は見様見真似で、あさがおさんの書いた住所や名前の感じをゆっくりと丁寧に書いているものです。

ですので、しばらくは練習として手紙のやり取りを続けても構いませんか?

僕の手紙の文章の上達ぶりを見てほしいのもあります。自らの恥を晒すものなので……恥ずかしいですが……よろしくお願いします】


 丁寧にお辞儀する安吾の姿と必死に勉強する姿が想像でき、『わんこ』は微笑んでしまった。彼女は再び、手紙を目に通すと気になることが書いてあった。


【ここからが本題です。貴方と別れたあと、今現在僕は僕なりに貴女に変化を齎し家族を奪った妖怪について調べております。思い当たるものはいくつかありますのて、何かわかりましたら手紙や僕の口からお話します。

あと、練習付き合うのは金曜日から日曜の間とかは都合は付きますか?

できましたら、お返事ほしいです。

……ちょっと愚痴を書いて失礼しますが……僕がひらがなやカタカナの漢字ドリルを買って笑う狐と狸がいるんです。散々笑ってくるので、とりあえず仕返しする予定です。

……あさがおさんも想像してませんよね?】


 その一文を見てぎくっとする『わんこ』は、返事で絶対に謝ろうと思った。苦笑しつつ手紙の続きを読む。


【想像していてもしていなくても構いません。世間慣れしていない僕にも非があります。この先、ギブアンドテイクというやつになりますが、改めてよろしくお願いします。手紙はここまでとなりますが、おまけにあさがおさんの今週の運勢を占って見ました。もう一枚の紙に記しております。

それでは、良い週でありますように 安吾より】

「……占い……?」


 不思議に思い、もう一枚の紙を見る。

 ひらがなだけではなく、三枚の花札の絵柄と7日間の運勢について乗っていた。花札の絵柄は猪と鹿と牡丹と蝶であった。

 その運勢を一部抜粋する。

 

【今週の7日間!

犬も歩けば棒にあたるはおわり。まさかの猪鹿蝶。花札としては点数が取れるもの。週の前半に猪の花札が出ているのでスタートダッシュとやらは、早いほうがいいかも。


週の半ばは、きっと金運が少し上がる? お買い物とかで良いものに出会うかもだけど、散財には気をつけて!


週末は、何か嬉しいことが起きそう!】


 書き方も女の子が興味を引きそうなものがばかりだ。男の友人に教わったのかと思うと、『わんこ』は色々気になるものがある。

 最初の一文が気になり、『わんこ』は呟く。


「スタートダッシュかぁ……って、そうだ、学校!」


 彼女は時間を見ると、まだ間に合うものであり遅く出ても良いぐらいであった。ほっとするが、占いにある最初の一文を見て彼女は微笑む。


「……時間はまだあるし、たまには早く登校してみよ!」


 と通学バッグを手にした。教科の準備はしてある為、忘れ物はない。だが、お財布は小銭を多めに持っていく。

 家に便箋と手紙は残っていたはずだ。彼女は身だしなみを整えて靴を履く。玄関と門の鍵を締めて、『わんこ』は背を向けて「いってきます」と声をかける。

 帰りにコンビニに寄って切手を買い、帰って手紙を書く。これを目標に彼女は学校へと足を向けていった。

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