4 わんこはオカルトの説明を受ける

 県道をまっすぐと向かい、住宅街外に入る。空いている隙間の道を利用し、道を通る。

 歩いていくうちに、『わんこ』は見覚えのある寺についた。駿河湾の海が見れ、富士山も見れるロケーションのいい。二人は門をくぐり、中に入っていく。

 簡単にお参りを済ませあ。お賽銭は心ばかりだが、『わんこ』は十円いれる。安吾は五円玉を入れていた。ご縁がありますようにという『ご縁』の語呂合わせにお賽銭でいれる人もいる。だが、彼女はすぐに気付く。自動販売機は一円玉や五円玉が反応するわけない。小銭を持っているが、自動販売機で使える小銭を持っているわけではないのだ。

 安吾は周囲を見回したあと、息をつく。


「……ここなら話しても問題ないでしょう。

歩き疲れているなら、適当に地べたに座っても構いませんよ」

「大丈夫です。けど、問題がないとは……?」

「ここは、信仰の場なので悪意もつ人ならざるものの侵入を多少は防ぎます」

「そういうことなんだ……。では……ここはなんですか?」


 本題と言える質問を聞かれ、安吾は教えた。


「ここは、黄泉比良坂という境界の世界。あの世とこの世の間にある狭間の世界であり、妖怪が住まう場所の世界にもなり得ます」


 聞いたことのない名称に『わんこ』は瞬きをした。だが、簡単な説明をしてくれたおかげで、彼女は理解できる事柄がある。事柄を踏まえて、疑問を彼に離した。


「じゃあ、私はこの黄泉比良坂の世界にも来てしまったのですよね?

……あの世とこの世の世界なら簡単にいけるはずないのでは?」

「ええ、普通は。ですが、あさがおさん達は運悪くとある怪談の条件に合致してここに来てしまいました」

「……怪談? 怪談って四谷怪談とか……怖い話とか?」


 不思議そうに話す『わんこ』に、安吾は難しそうな顔をする。


「強く残る作品や話とかそうなりますけど、僕が言っている怪談は都市伝説に部類するものです。人伝から語られてるもの、インターネットの掲示板に語られる洒落怖というものが該当するようなのです。有名なものとなると、トイレの花子さんや人面犬。メリーさんとか、八尺様とか……聞いたことありませんか?」

「トイレの花子さんと人面犬、メリーさんは知ってます。けど、八尺様は名前だけ……」


 トイレの花子さんは小学生の頃にやっていたのを見たことある。人面犬の話も聞いた。八尺様は名前だけであり、『わんこ』は詳しく知らない。だが、ネットで八尺様のような怖い怪談が流行っていることは知っている。

 彼女の反応に、安吾は納得するように頷く。


「そうですよね。僕も実はこんなに怪談が容易に作れて、すくに点播できるとは思いませんでしたし……時間の流れは本当に早いですね」


 感慨深くいう彼に首を縦に振りかけたが、彼女は内心ではてなを浮かばせる。安吾の発言がおかしく感じたからだ。怪談が簡単に作れてすぐ広まる。時間の流れが早いというのも、スマホという携帯の機種が現れているゆえに感じるのもわかる。だが、今を生きている人間ゆえに感慨深く言う必要があるのか。

 彼が半分人間でないという言葉も気になり、おそるおそる聞く。


「……あの、安吾さんは……どのくらい生きているのですか?

……そもそも、何者……なんですか?」

「……あっ、流石にそこは見逃してくれません?」

「いや、駄目でしょう」

「ですよねー……。流石に僕のことについて話さないとまずいですねー……」


 即答で駄目だしをし、安吾は複雑そうに笑う。『わんこ』はこの人大丈夫かと目線を送る。彼は自分の胸の上に手を置いて、身の上を打ち明け始めた。


「名目上では、僕は『半妖』という存在になっていますね。半分人で半分人じゃないんです。一応、あさがおさんより長寿ですよ」


 半妖。耳にして、『わんこ』は口を開けて驚いた。だが、自分の身がオカルトを体験しており、鬼の遭遇。安吾の登場の仕方を追い返すと、腑に落ちる部分は多い。打ち明けられたことに、『わんこ』は頷いてみせた。


「……半妖。確かに、人ならざる部分があるなら急に安吾さんが現れた理由が納得いきます」


 納得している彼女に安吾は苦笑した。


「あらら、流石に現れ方が不自然でしたか」

「まあ、私ともう二人だけしか忠霊塔の下を潜ってませんでしたから、安吾さんについては怪しいなと思いましたし」

「そうですよね。ふむ、一つ学びました」


 頷く安吾の言葉が気になりつつも、『わんこ』は本題を聞く。


「あの、そろそろ、安吾さんの言うそのインターネットで語られている怪談って……?」

「……ああ、そうですね。まずそのインターネットで語られている怪談の前に、妖怪について簡単に教えます」


 咳払いをし、彼は語り始めた。


「妖怪とは理解不能な現象を引き起こす非現実な存在です。妖怪は、基本的に人の想いや気に当てられて生まれます。妖怪のような存在が生まれるケースは多岐にわたりますが、名を得て形となる妖怪となる。これが普通と考えてもよいでしょう。

そして、怪談の妖怪。インターネットの掲示板や話にある怪談の怪異といいますか。それは創作話そのものが本体なのです。人の認知度が多くなるたび、誕生しやすくなります。要は、筍みたいなものです」


 面白い話に『わんこ』は興味深そうに聞いているが、すぐにおかしいと気づく。


「……あれ? ですが、私は怪異に遭遇してませんよ?

妖怪にあったとしても、怪異にあった……ってことはないです。あの女学生を連れて行った鬼が怪異……ですか?」

「いえ、あれは普通の妖怪。当然中には特殊ケースも存在します。

それが、あさがおさんの遭遇した現象系の怪異といえますね。現象や儀式は時間をかけて作られるもの。貴女が遭遇した創作の怪談は『4:44 16:44 4:44:44』です」


 知らぬ怪談の名前に『わんこ』は瞬きをする。


「ええっと、待ってくださいね……」


 内容を安吾は折り畳み式携帯を出して操作する。携帯の機種が見るからして、子供携帯か老人が使うようなかんたん携帯だ。両手でゆっくりと操作していく。慣れぬものを扱うような感じだ。見ていてもはらはらする為、『わんこ』が声をかける。


「……あの、代わりに私が検索しましょうか?」

「! いいんですか!? すみません……! 携帯に慣れてないもので……!」


 安吾は嬉しそうに折り畳み式携帯を『わんこ』に渡した。長生きしていて機械になれないのかと思い、『わんこ』が操作をする。パスワードはかけてないらしく、簡単に携帯専用の検索サイトに入れた。

 安吾の言っていた創作怪談のタイトルをキーワードに、怪談と添えて検索すると目的のものが現れた。

 特定の時間タイトル通りの『4:44 16:44 4:44:44』に境界と該当する場所を通ると、別の世界にたどり着く。しかし、四の多い『4:44:44』に入ってしまうと、あの世へ行くというものだ。単純だととしても、言葉というものは怖い。口にして入ればいずれ、言葉の力に呑まれてしまう。

 彼女が見ている最中、安吾は隣で一緒に覗き込む。整った顔が近いことに『わんこ』はびっくりする。


「この『4:44 16:44 4:44:44』の怪談の条件が合致して、貴女は黄泉比良坂の世界へと来てしまった。この平成の世になってから、各地でどうやら境界に関する怪異が現れ安くなっているみたいなのです」


 いい声が耳から聞こえ、耳と尻尾がピンと上にたつ。顔が暑くなるのを感じた『わんこ』は吠える。


「わん! って、そうじゃなくて! 安吾さん、近い!」

「あっ、すみません!」


 注意され、安吾は気付いて離れて頭を下げて謝った。


「失礼しました。人との距離感未だにつかめてなく……誠に申し訳ありません」

「き、気をつけてくれればいいんです! ……けど、これがどうして忠霊塔のモニュメントの下が入口になるのですか?」


 気を取り直し疑問を聞く。安吾はモニュメントのある方向を見つめる。


「あそこは、清水区が合併される前は戦没者の慰霊式を行う場所でした。あのモニュメントの場所は慰霊式を行う場、祈る場になります。ですが、慰霊式が行わなくなってもあそこは祈る場であった。一定期間人が祈る場所があるのは、現実との境ができる。故に、あそこのモニュメントの場所だけは怪談の条件に当てはまってしまった……と考えるべきでしょうね」


 安吾の考えを聞き、納得した。納得できてしまったと言えよう。戦没者を祭る神社もあるため、慰霊祭が行われる場も普通の場所ではないのだ。今では名残としてモニュメントなどあるが、今でも忠霊塔のあった場所は空気が違う。

 モニュメントのある方向を見つめ、安吾は興味深そうにつぶやく。


「ですが、あのモニュメントは神社建築の千木が取り入れられているからこそ、余計に効果があるのかもしれませんね」

「その効果って風水みたいな感じですか……?」

「いえ、恐らくあのモニュメントは領域を現す象徴としての効果ですね。……その効果は、あさがおさんが身をもって証明しています」

「……そうなんだ」

「それに、仮にです。あの辺りが風水として整っていたとしても、怪談の条件に当てはまりますよ」


 風水は陰陽道の五行思想に沿って色や物を配置し、運気を呼び込みまたは活性化させる。モニュメントの効果は別物だと説明され、『わんこ』は興味津々で聞いていた。


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