第14話 ヒロインの体を好き放題にいじくりまわす主人公

 なんとなく2人で一緒に街をブラブラと歩いていたハーランドとゾーイ。掲示板の張り紙を見るために立ち止まった。


『マッサージ大会 参加者募集中』


「ふーん、マッサージ大会ねえ。俺には縁がない大会かな」


「これだ!」


 ゾーイは掲示物を食い入るように見る。その隅々まで読みつくして目を輝かせた。


「これって何?」


「マッサージ師が集まる場所。それがあればウチが今調査している違法な業者を見つけられるかもしれない!」


 ゾーイは拳をぐっと握って参加する気満々である。だが、そんなゾーイとは対照的にハーランドは乗り気ではなくて冷ややかな目で見ている。


「いや、冷静に考えて、ゾーイ。素人がいきなりそんな大会に出らえるわけがないじゃないか」


 確かにゾーイはマッサージの経験がない。大会に出る資格そのものがあるのか怪しいところである。


「うぐ……確かに。それじゃあウチはマッサージされる側での参戦ってことで」


「マッサージされる側。なるほど。確かにマッサージには相手が必要だね」


 募集要項を見れば確かに施術を受ける側の募集もしていた。


「というわけで、ウチはマッサージを受ける練習がしたい。だから、ハーランド。ちょっと、ウチにマッサージしてみて」


「え?」


 急に無茶ぶりをされて困るハーランドだが、そこでハーランドはあることを思いついた。ジェイクに使ったあの魔法を今ここで使う時がきたのだ。


「よし、それじゃあ行くよ。ゾーイ。ちょっとビリっとくるかもしれないけど、ちょっとそこで立ってて?」


「……? いいけど」


 ハーランドはゾーイに向かって人差し指をさす。そして――


「肩こり腰痛等に効く命中すると気持ちが良い微弱なサンダー!」


 ハーランドの指先から微弱な電気が走る。それにゾーイが命中する。


「は、はぅううう!」


 ゾーイはその電撃を受けて身もだえしてしまう。白昼堂々、街中で不審な動きをするゾーイに周囲の人間も怪訝な表情でゾーイを見ていた。


「今のは何? ハーランド。こんな魔法をウチは知らない! 見たことも聞いてことも受けたことも食べたこともない」


「まあ、俺だけが使える特別な魔法ってことで」


「ハーランド。今の魔法があれば、マッサージ大会で優勝すること間違いなしだよ!」


 あまりにも気持ちが良い魔法を受けたことで興奮状態になったゾーイだが、ハーランドは眉間にしわを寄せて険しい顔をする。


「うーん……でも、俺は偶然覚えた魔法を使っただけだからな。本職でマッサージ師を真面目にやっている人に対して、こんな方法で挑むのはなんか抵抗があるというか、到底許されざる反則行為だと思う」


「何言ってんの。ハーランドのその魔法だって立派な技術じゃないの」


「そうは言っても、大会の目的はマッサージ師が日頃磨いた腕を見せることだからねえ。全く努力してない俺が参加して良いものなのか……」


 悩んでいるハーランドだったが、そんな彼の様子を見て通行人が「ふっふっふ」と笑いかけた。


「私たちも舐められたものですねえ」


 白衣を着てメガネをかけている見た目だけなら賢そうな女性がハーランドに声をかけてきた。


「私たちは日夜、本気で技術を磨いている。それに対してなぜ引け目を感じる必要がある? それは、あなたが私たちに勝てるなどという傲慢な考えを持っているからです! 素人が少しマッサージに適した魔法を覚えただけで、大会を荒らす結果になると? 思い上がりも甚だしい! その魔法とやらで私に本気で挑みなさい。返り討ちにして差し上げます」


 女性はメガネをクイっと持ち上げた。


「は、はあ……まあ、参加者の方がそれで納得できるならしますけど……」


 ハーランドは結局流れで大会に参加することとなった。


「ハーランド! あんなこと言われて悔しくないの?」


「まあ、確かに俺はこの魔法で勝てる気でいたのは否定できないかな。それは確かに思い上がりがあったと思う。だからこそ、俺はこの魔法を全力で極めたいと思う。それが対戦相手に対する礼儀だ」


「なるほど……わかった。ハーランド。ウチも手伝おう! 実験体でもなんでも、ウチの体は好きにしていいから!」


「わかった。ありがとう。ゾーイ」



 こうして、ハーランドとゾーイは秘密の特訓をすることとなった。レイチェルの羊小屋の控室を借りてそこで魔法の練習をしてみる。


「肩こり腰痛等に効く命中すると気持ちが良い微弱なサンダー!」


 ハーランドがゾーイに向かって先ほどの魔法を唱える。ゾーイの体にビリビリと気持ちが良い電流が走る。だが……


「うーん、気持ちいいけど、初見の時のような感覚はないかな」


「えー……おかしいな。俺の魔法が弱まったのかな?」


「いや、違うと思う。多分、最初に魔法を受けた時にウチの体の凝りが解消されたんだと思う。体が凝っていればその分、マッサージは気持ちよく感じるけれど、それが治っちゃったらそこまで気持ちよくないのかも」


 ゾーイは自分の体を好きにして良いとは言ったが、既に凝りが解消されてしまったゾーイには魔法が通じなくなってしまった。これでは、ハーランドの成長が実感できないし、魔法の練習にもならない。


「ゾーイ。体を好きにして良いって言ったよね?」


 ハーランドはゾーイに物理的に迫った。普段、見せないハーランドの意地悪そうな笑み。それに気圧されたゾーイは冷や汗をかいて後ずさりをしてしまう。


「え? ちょ、ちょっと待って。確かにそう言ったけど……心の準備が……」


「大会まで時間がない。約束は守ってもらうよ――」


 ゾーイは思わず目をつむってしまう。その隙にハーランドは――


「しばらくの間、体が麻痺して身動きがとれなくなってしまうサンダー!」


 ハーランドがゾーイに向かって魔法を放つ。


「うぎゃあ!」


 ハーランドの言葉通りにゾーイは体が麻痺して動けなくなってしまう。しかも、今回は威力を抑えていないために普通にダメージを食らってしまう。


「あがが……」


 ゾーイは体が麻痺して言葉がまともにしゃべれなくなってしまった。そんなゾーイを放置してハーランドは椅子に座って、控室においてある雑誌を読み始めた。


「それじゃあ、しばらくの間同じ体勢でいて。ずっとその体勢ならすぐに体がガッチガチに凝ると思うから」


「…………」


 体が痺れてまともに言葉すら発せられないゾーイだが、体が動かないだけで意識はある。こんなことをするハーランドをいつかぶっ飛ばしてやる。心の中でそんな呪詛をつきながら、まるで悪びれる様子もなく雑誌を読み始めるハーランドにいら立ちを覚えた。


「あ、この店。今日食べた定食屋だ。へー。雑誌に紹介されるほどの名店なんだ。知らなかったなあ。ゾーイは食べに行ったことある?」


「…………」


「ああ、体がビリビリバリバリに麻痺してしゃべれないのか。じゃあ、しゃべれるように良い感じに声帯が動くようになるサンダー!」


 ハーランドはまたしてもゾーイにサンダーを撃つ。それによって、ゾーイは会話することが可能になった。


「ハーランド……あんたねえ。もうちょっと加減してよ。あんたのサンダー結構痛いの」


「加減……あ、そうか。ごめんごめん、弱い威力にし忘れていた。ありがとうゾーイ。これを大会本番でやっていたらとんでもないことになるところだった」


「それと麻痺も解除して」


「うーん……わかった。麻痺を解除するサンダー!」


 しかし、ハーランドの魔法は出なかった。


「あ、あれ……? おかしいな。しゃべれるようにはできたのに……あ、そうか。雷そのものには麻痺を解除させる性質はないんだ。しゃべれるようになったのは、体を動かすのには電気が必要だから、特定の行動をとらせる電撃は放つことができる。となると……手足が自在に動かせるようになる微弱なサンダー」


 ハーランドはゾーイにサンダーを当てた。その威力は弱くてゾーイにはダメージがほとんどなかった。


「ふう。やっと動かせるようになった。全く。ハーランド。ウチが強力するのはマッサージ系の魔法だけだから、他の人体実験はやめて」


「わかった。マッサージ系だけね」



「ハーランド君は魔法の練習をしているみたいだな。ちょっと差し入れでもあげるか」


 羊牧場の管理人のレイチェルが差し入れに軽食を持ってくる。控室の前にて立つと中の様子が聞こえてきた。


「あ、そこ……あ、そこ気持ちいい。あぁ……」


「ふーん。なるほど。こういう感じでやればいいんだ。でも、ちょっと声あげすぎじゃない?」


「仕方ないじゃない。気持ちよくなっちゃうようになったのはあんたの魔法のせいなんだから」


「まあ、身動きがとれないようにしちゃったから、その分そういう体になっちゃったのかな?」


「あ、今のはちょっと強かった。もうちょっと優しくして」


「あ、ごめん。こういうの慣れてないからよくわからないんだ」


 中の声を聞いたレイチェルはその場で立ち止まり……何も聞かなかったことにして、その場を立ち去った。

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就職に失敗したけど俺だけ使える修飾魔法で最強を目指します 下垣 @vasita

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