誰が為のジョイスティック

@JACK_RED_NIGHT

誰が為のジョイスティック

小学生の頃の話だ。学校から帰ってきてすぐ僕はランドセルを放り出してゲームに勤しんでいた。よくある光景。でもその日はすぐそばにミクちゃんがいた。


ミクちゃんは隣の家の子で、活発な女の子だった。一人っ子の僕なんかより、2人の兄を持つミクちゃんの方が元気ハツラツとしていて、家で1人でゲームをして遊ぶのが好きな僕とはあまり趣味が合わない。でも母親同士は仲が良かったからたまに「一緒に遊んだら?」と無茶ぶりをされていた。


ミクちゃんと対戦ゲームをすると毎回ボコボコにされるので(ミクちゃんはゲーマーではないが、お兄ちゃん達と戦っていたので練度が非常に高かった)、僕は1人用のゲームを起動して遊んでいた。隣でミクちゃんは「外行こうよ〜」とか「マリカにしようよ〜、ミク結構上手いし」とか言いながらゴロゴロ転がっていた。


ミクちゃんを無視したい訳ではないが、女の子に負けたくない。どうしたもんかな、と思ってチラっとミクちゃんの方を見ると、スポーティなショートパンツの付け根から少しパンツが見えていた。


大人の僕から子供服を製作する皆様に声を大にして伝えたいのは、女児のショートパンツの裾はゆったりさせないで欲しいという事だ。寝っ転がったら見えてしまうというのは致命的な設計ミスだと思う。


「ショートパンツ ぴったり」で検索したらそれはそれで設計ミスだと思ったので、女児にショートパンツは履かせないでほしい。僕みたいな被害者がこれ以上増えない為にも。


見てはいけない物を見てしまった、と子供心にも悟った。だから僕はミクちゃんごと無かった事にしようとした。でも全部忘れてゲームに集中しようとすればするほど、一瞬見えた、水色の生地が頭の中にこびり付いていく。気が付くと、僕は人生初の勃起をしていた。


悲劇はそれで終わらない。僕の様子がおかしい事に気がついたミクちゃんが「ねー、大丈夫ー?」と言いながら近付いてくる。隠したい僕はミクちゃんに背を向けた。でも、股間がちょっと痛い僕よりミクちゃんの方が機動力は高いから、すぐに回り込まられた。



ミクちゃんに見られてしまった、と思った次の瞬間。

ミクちゃんは「おもかじいっぱい‼︎」と言いながら僕の股間を操作した。



意味が分からなすぎて泣き叫んだのを覚えてる。ミクちゃんのお母さんにすごい謝られたし、母さんが僕と父さん以外にブチ切れているのを見たのは初めてだった。あの日以来母親同士がギクシャクしてしまい、僕らのご近所付き合いは必要最低限のものだけになった。


ミクちゃんの家の中だけで大ブームのちんちんジョイスティックという遊びがあり、幼いミクちゃんはそれを外でもやってしまっただけ。しかし、あの日ミクちゃんに無邪気に人生の進路を変えられてしまって以来、僕はかなり歪んだ嗜好の持ち主になってしまった。


中学生になって、野郎だけでこっそりエロ本を鑑賞した時に僕の異常は発覚した。全く心が動かなかったのである。「お前らこんなんで発情できるの?猿だわ〜」と嘯くものの、内心焦っていた。

高校生になっても、鑑賞会に過激なAVが持ち込まれる様になっても、僕の心は凪だった。ついに仲間内からも「お前、インポなの?」と野次られるようになった。


全く勃たない訳ではない。ズリネタが一つしかないだけ。思春期以降の僕はあの日の記憶のみで自家発電をし続けていた。


大学生になって一人暮らしをするようになり、親フラの心配がなくなった僕はかねてから考えていた実験を実践してみる事にした。


まず、ネット通販で水色の女児用パンツを買った。僕の心は凪だった。


次に公園でレポートを書きながら(不審者だと通報されないように)、あの日のミクちゃん位の年齢の女の子たちを観察してみた。僕の心は凪だった。これはちょっと安心した。


その次は風俗にも行ってみた。ミクさんという名前の人がいたので指名した。(もちろんミクちゃん本人ではない。)綺麗な人だとは思ったし、世間一般で言うエロい女の権化みたいだというのも認識した。でも僕の心は凪だった。



色気ムンムンなミクさんを前にしても全然勃たない僕に対して、ミクさんは貶す事もなく、嘲る事もなく、「よくあることだから大丈夫ですよ〜、なんならちょっと楽だから嬉しいかも」なんてフォローしてくれた。


僕はその後も実験という名目でミクさんを指名した。3回目くらいから比較実験を開始した。オプション料を追加して下着の色だったり、服だったりをあの日のミクちゃんに近付けてもらった。それでも僕の心は凪だった。


いつも時間が余りまくるので、ミクさんと色々な話をした。最初は好きな漫画とかゲームの話とか浅い世間話をした。変な実験に付き合わせてしまってるミクさんには全ての元凶の『ちんちんジョイスティック事件』の話もした。それでもとうとうお互い話のネタが尽きてしまい途方に暮れていると、5回目位からミクさんがトランプを持ってくる様になった。ミクさんは鬼のようにスピードが強かった。


「小学生の時に私スピードが学年で最強だったんだけど、大人になるとスピードってやらないんだよね。っていうかトランプの遊びがポーカー一択になる」


成人全裸男と成人女児服女のスピード対決。異様な光景だが、僕の心は凪、いや、ちょっと普通に楽しかった。


そんな何の成果もない停滞した日々が続く中、僕はいつものようにミクさんとスピードをしに来た。でもあの日のミクさんは少し違った。ミクさんは「私、分かったかも」と言いながらベッドに乗り込んできた。その目はスピードを楽しそうにやってる彼女とは違い、猛禽類みたいな、少し怖い目をしていた。


急な展開に固まってしまった僕の股間にそっと触れ、ミクさんは艶やかな声で囁いた。



「取舵いっぱい♡」



それはもうバキバキに勃った。自家発電した時なんて非じゃないくらいに勃った。



「正解だ〜!やっぱ面舵で狂うんだったら取舵も取って調整しないとね〜」と嬉しそうに言いながら僕のジョイスティックを扱くミクさんが意味分からなすぎて、我ながら情けない悲鳴が出た。ミクさんが怖い。完全に捕食者プレデターの目をしていて、もちろん獲物は僕だった。忘れていたけど、この人はプロで、僕はあっという間に高みに連れて行かれて、そしてそのままミクさんの手の中で果ててしまった。


僕自身みたいにダラダラとしてキレの悪い吐精を、やっぱりミクさんは貶す事もなく、嘲る事もなく、「お疲れ様〜、大丈夫だった?」なんてフォローしてくれた。でもその優しさも、甘い声も、いつものミクさんと同じはずなのに、女児服を着ているのに、


ミクさんはどうしようもなく女だった。


時間は余っていたけど、僕はシャワーを浴びて逃げるように部屋を出た。


家に戻って1人になった僕は最後の実験を行うことにした。

唯一のズリネタだったミクちゃんを思いながら、ジョイスティックに手を添える。いつもは緩やかながら起動するのに、今はピクリともしない。次にミクさんを、と思ったが生々しすぎるので以前「役立つのではないか」と購入していたAVを見ながらジョイスティックを操作する。僕の心は、僕は、正常に作動した。



あの日以来僕は風俗には行っていない。ミクさんから「またスピードやろうよ」とLINEは来ているが、既読無視をし続けている。ミクさんは本当に僕の狂った進路を直してくれたらしく、普通のエロ画像やAVでも正常に勃起するようにはなった。


そこにはとても感謝しているが、ただ、あれから僕は、気のおけない友達が1人いなくなってしまった喪失感に苛まれ続けているのだ。

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