わたしだけのピアノ・スター(14)

 司会者がステージのはしっこでマイクを握る。

 声高らかに、


「次の発表は出演番号七番! 『スノーフェアリーズ』のみなさんでーす!」


 そうとなりで紹介された私は、リズムマシーンの再生ボタンを押した。

 四カウントで始まる、スリーピース・バンド……そして私自身の、初めての本番!




 ──『妄想スケッチ』feat. スノーフェアリーズ──




 一発目をできるかぎり大音量でかましたかった私たちは、前のバンド『辛口少女』にお願いして、キーボードを借りることにした。

 イントロの明るいメロディを、グランドピアノだけじゃない、さくらちゃんがキーボードで鳴らしてくれる。


「うおおおおおおおおおおっ!」


 体育館のギャラリーが一斉にわき上がった。

 すごい熱気!

 いっぱい酸素を吸い込んで、すべて吐き出しても足りないくらい、みんなの声援が私たちの音をかき消していくようだ。

 ロックナンバーにして本当によかった。雪葉くんの言う通り、いきなりバラードなんて弾き始めたら場がシラけたかもしれない……。


 一番忙しいのはさくらちゃんだろうなあ。

『妄想スケッチ』でエレキギター弾きながら、サビと間奏のメロディはキーボードでって。次の曲はアコースティックギターに持ち替えることになってるし。

 特にサビを私といっしょに音出してくれるのは超助かった。一番大事なメロディがひとりじゃないって、すごく頼もしい。


(これならクラスのみんなにもオンチってどやされないよね……たぶん!)


 歌詞の二番まで歌いきり、間奏に入ると私はマイク越しに、


「みんなー!」


 ギャラリーへ叫ぶ。


「盛り上がってますかー⁉︎」

「うおおおおおおおおおおっ!」


 超盛り上がってる! さっすが文化祭!

 はいそうです。たいへん恐れ多いことに、ボーカルついででこのバンドのMCを務めるのも私なんです。


「今日はあ! えっとお! 同じクラスの雪葉くんとさくらちゃんとお! がんばってステージを盛り上げていきまーすっ!」


 私、実は内心困ってます。

 バンドの練習はものすごくたくさんやってきたけど、そういえばMCの練習とか、曲の合間になにをしゃべるか……全っっっ然考えてこなかったんだよね。

 しまったあ、すっかり忘れてたあ!


 そうこうしているうちに最後のサビがやってきて、うっかり歌い忘れそうにもなった。

 でも、よかった。

 あんなにカチコチだった雪葉くんも、ピアノの前に座ったら、どこか落ち着いているような気がする。




 演奏が終わると拍手も声援も、ものすんごくたくさんもらえる。

 やっば。一曲歌っただけでこの息切れ感。

 メロディのひとつひとつにエネルギーをたくさん消費してるのが、自分でもわかった。

 本当、私ってスタミナがないよなあ。まさか運動のオンチが、こんなところで響くとは。


「ありがとーございまーす!」


 私はそれでも叫ぶのをやめない。

 せっかくステージに上がれたんだ。最後に倒れちゃってもいいってくらい、全身全霊で!


「えっとお……次の曲、やりまーす!」


 ただ、やっぱりMCの内容はもうちょっと考えてくるべきだった。

 頭の中ではいろいろ気の利いた台詞を、がんばってどうにかこうにか探そうとしてるんだけど、みんなの笑顔を見下ろしていると結局なにも思い浮かばなくなっちゃって。

 雪葉くんはピアノ椅子に座ったままびくともしないし、さくらちゃんはギター持ち替えてて準備で忙しそうだし。


 てか、私。今なんの曲を演奏したか、お客さんにちゃんと伝えたっけ?


「えー次にやるのはあ! 私がめ……っちゃ、大好きな曲ですっ!」


 沸騰ふっとうしそうな頭をフル回転させる。


「今は秋ですがあ! 春の曲をやりたいと思いまーす! 準備はいいですかーっ⁉︎」


 最後のはお客さんではなく、正面向いたままバンドメンバーへ呼び掛けたセリフだ。

 わははと何人かの笑い声が聞こえてくる。たぶんクラスメイトだ。「こらー暁ぃ! 如月と弥生さんに聞けってー」といったツッコミも飛んできた。

 私は顔を真っ赤にしながら、再びリズムマシーンの再生ボタンを押した。




 ──『春に一番近い街』feat. スノーフェアリーズ──

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