俺達の消える日
スキルが開放されてから80年。世界の人口が男:女が7:3になったころ。言い換えると俺:男:女が4:3:3になったころ。俺達は既にヨッボヨボの100歳を迎えていた。全員がベッドで寝ている。これでいいのだ。これでよかったのだ。そう思うことにした。
俺達の影響力が多すぎたため、世界の均衡が崩れたあの日。それはいつだっただろう。60年ほど前か、いや生まれたとからそうだったのかと。
俺達はどれだけ人口が増えようと自在にコントロールできる。食物が減れば食物を育てる人を増やし、研究が滞れば研究に人を回した。
億を超える人間が全員意志疎通出来ている。これはおかしいとかいう次元ではない。起きてはいけなかったのだと。
「いやあマスヒト37A#4Qさん。俺達長くなさそうですね。」
「を言うマスヒト=7@9N5よ。これでよかった。これでよかったのだよ。」
「そうなんですけどねえ、心に穴が開いてしまいそうな感覚だ」
「あのとき決めたことだ。あの時からこうなることは決まっていた」
「あの時ねえ」
あれはいつのことだろう。確か俺達が35歳の頃だろうか
「俺達って男しかいないよなあ。半分くらい女にするか?」
「たしかにそうすれば遺伝子を残すことも、レベル上げ以外でも繁栄することが出来る」
「いやあ遺伝子の問題もありますし、劣性遺伝はどうにもならないでしょうよ」
この頃からコピーのこれ達に自主性と自由が生まれた。俺達同士で意見し合うことも出来るようになった。
「これだけ強くなったら劣性遺伝くらい跳ね返せそうだけどねえ」
「マスヒト37A#4Qはいつも乱暴なことをおっしゃる」
「マスヒト=7@9N5が保守的すぎるんだろうが」
まあこれでも元は俺。俺達同士で多少意見がすれ違えど、全て俺の意見。
俺達が出した答えが俺達の答えだ。
「このまま俺達は居続けていいのだろうか?」
「俺達はこの世界のバランスを崩し、それどころか俺達以外の文明を遅らせている。」
もちろん他国とのある程度の技術の共有はあるにせよ、これはほぼ教養の強要である。
これのどこが共有と言えよう。
「俺達が消えるのも自然の摂理でなかろうか。俺達も寿命を伸ばそうと思えば伸ばせるだろ。だがしない、俺達はこれ以上のレベル上げ、これ以上の繁栄はしない方がこの世界のためなのかもな」
「そう…なのかもな。俺達はいつから間違えたのだろうか。この力の使い方を。」
「この会議で30人、いや国民も合わせて50億人ほど。これだけの俺がいて、答えが見つからないなんねな、なんか笑えるよな。」
「そう…だな」
どっと50億人の笑い声が一気に漏れる。
「そうだな、俺達はパーッと輝いて静かに死ぬ。それって普通のことに聞こえるけど、規模が違う。」
「そう…だな」
「ここまでのこと出来たのは俺達だけだよ!」
「俺…ッ!俺達がいてくれてよかったよ!」
そして、30人ほどで行われた会議の後国民投票を行った。投票率100%、賛成100%で俺達はゆっくり死ぬことを選んだ。
「これで、ようやく終わるのかな」
「ようやくって途中から大して働いてないだろ」
「働いてないときも含めてだよ、俺達はついに終わるんだ。」
「皆よく頑張ったよ。本当に」
本体の俺、いやオリジナルである俺はみんなの記憶を盗聴して聞いている。
俺の脳内は見せてない。誰にも。人生で一度もだ。俺は俺の能力を確認する。
複製…自分の劣化コピーを作り完全に操ることが出来る。
「いやあマスヒト君も悪いこと考えるよねえ」
聞きなれた女の声だ。
「いやあ俺のコピー使ってさ。どんな文明を作ってどんな終わりかたをするのかなって」
「マスヒト(本)だっけ?あいつ自分がオリジナルだと思い込んでいたよ?」
俺はニヤニヤしながら言う。
「あいつは俺がレベル10のとき出来たコピーだよ。俺はあれ以来レベル上げてないからねえ」
「あいつはなんでレベル50になってから能力が使えるようになったの?」
「途中からは彼の推理であってるよ。(本)君だっけ?」
オリジナルは続けて言う。
「そりゃ俺のレベル10のステータスでようやく(本)君のレベル50だから。増殖の権限が彼に渡ったんだろうねだから僕はあれ依頼一度も増殖してないよ」
「でも今出来てるじゃん」
「そりゃ僕のレベルが上がって彼から権限は消えたからね、もう増殖しないように思考誘導しちゃった(笑)」
隣で興味深そうに聞いてる彼女の反応を気にしながら笑う。
「えーなんだよそれー」
「そんなことよりもう一回続きしようよ」
「えーいいよお」
一つの文明が終わった世界の地下深く。オリジナルと女は二人で世界を観察している。
「レベル20で手に入ったこの子。どう使おうかね…」
スキル複製で百人力 葦艸草生 @kanzakiyuya
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます