第6話 アーカイブ「THE TRUE END」
――本山陽介の手記より(※全文医師による代筆)
株式会社ネオ・オンライン・ディストリビューションのインタラクティブ・ミステリー部門で、シナリオライターとして働いていた私、本山陽介は、様々な可能性を持った本コンテンツに意欲を持って挑んでいました。
しかしながら、全てのユーザーを満足させるには至らず、自身の理想と、ユーザーの不満とのギャップに、日々ストレスを感じるようになっていました。
特に、「シナリオにリアリティがない」という意見には、シナリオライターの前任者である若松氏のアシスタントをしていた時から、悩まされ続けていました。
フィクションの中でのリアリティとは何なのか。私は、ある書籍で「リアリティとは、必然性と合理性があり、且つ、共感を得ることで初めて生まれる」と書いてあるのを目にしました。
しかし、今の世の中で起きている事件を見るどうでしょうか。突発的で、目的意識もなく、必然性も合理性もなく、自分勝手で共感などできない事件ばかりです。
そこで私は、私なりの方法でリアリティを出すことにしました。
現実の事件に沿ってシナリオを書くのは、フィクションとは呼べませんし、犠牲者や遺族の方々に申し訳ない気がしていましたので、自分が新しく事件を起こすという方法を選んだのです。そして書き上げたのが「同乗者の殺人」でした。
交通事故で下半身不随になるという設定までは、事故を起こした段階で死亡されては困るので真似できませんでしたが、バスルームでの最後のシーンを再現するのは容易でした。元々再現可能な方法をシナリオに書いたので当然ですが。
ルームシェアをしていた三城実里さんは被害者として、真壁真一は最初に浮かび上がる容疑者として、恰好の人物でした。
この「同乗者の殺人」のできには満足していましたが、残念ながら、その評価を目にすることなく、私は退職させられました。
次のシナリオの構想もできたいた私は、絶望とも呼べる失意に沈みましたが、そのシナリオを、ライブ配信するという道を見つけ、喜びに打ち震えました。誰も殺されない、新しい形の一人称視点で展開するミステリーです。
事件の目撃者となってもらいたかった速見麗奈さんは、残念ながら部屋を去ってしまいました。しかし、それは些細なことです。
最も残念だったのは、私が今なお生かされていること。あのラストシーンで死ねなかったことです。最期に言うべきセリフが言えなかったことです。トゥルーエンドを視聴者に見せられなかったことです。
リアリティを求めたシナリオライターである本山陽介が、そのリアリティのために同居人を殺害した動機は伝えられました。しかし、最後に自ら命を絶とうとした動機は、裁判でも語ることを許されませんでした。
裁判が行われた時点で、私は既に大量の投薬によって自己の意識を深く沈められ、弁護士の言葉を聞くだけの人形になっていましたから。
私はただ、最期に「フィクションにリアリティを求めるな」と言いたかっただけでした。人が人を殺す物語に、真実味は不必要なのです。人が人を殺す物語にリアルを求めるのは、ある意味狂人めいています。
ですから、私は、私がこの世の中で、最も醜く命を閉じる様を見せたかった。現実の死を見せつけたかった。実際に自分勝手な殺人を犯した人間の末路を世界に示したかった。
「これが殺人者の末路だ」
今も生きている私がこの最期のセリフを書き留めたところで、リアリティはありません。
私は今、誰かの手によって殺されたいと願っています。しかし、その価値もないことも分かっています。死にたがっている私を殺してくれるほど、私を愛してくれている人などいないのですから。
了
シナリオライターはリアリティを求める -The True End- 西野ゆう @ukizm
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