第2話 戸惑い
直人が悠斗への気持ちに気づいた日から1ヶ月ほど経つも、悠斗は直人のもとに、分からないところがあると言ってはよく来る。
一時は、悠斗に赤面した顔を見られ、おかしく思われたのではと気にしていたときがあったけれど、悠斗はいつも通りだ。心配無用だったようだ。
直人が次の日の準備をしていると、準備室の扉が開く音がした。悠斗が来たのかと思いながら振り返ると、入ってきたのは、大学から付き合いのある
自分が思っていた人物と違い、直人は少しがっかりした顔になってしまった。
「あれ、残念って顔されると、傷つくなぁ。誰か待っていたのか?」
鋭い。相変わらず、人の表情を読み取るのが上手い。佐山は直人の2つ上で大学では同じサークルに所属し、話しやすさと面倒見のよさで、何かと一緒にいた先輩だ。偶然、同じ学校へ赴任することになり、今でも先輩後輩は続いている。
「誰も待っていませんよ。それより、どうしたんですか」
直人はこれ以上詮索されないように、話題を変えようとした。
「最近、飲みに行ってないから、久々にどうかなぁと思って誘いにきた。今日、どう?」
久々にとは言うが、佐山とは先月飲みに行ったばかりだった。直人は心の中でツッコミを入れつつ、断る理由もないので、行くと返事をした。
「店は俺が探しとく。じゃあ、また後でな」
佐山がいつもの癖で直人の頭をなでる。佐山は昔からスキンシップが多い。
「もう子どもじゃないんですよ。それにここは学校なんですから、やめてください」
「悪い悪い、ついな」
佐山が全然悪びれた感じなく謝っていると、突然、準備室の扉が開いた。立っていたのは、悠斗だった。
「石川!どうしたんだ」
「分からないところ教えてもらおうと思って...邪魔でした?」
いつもはにこやかな顔で来る悠斗が、いつもと違う。全然笑っていない。悠斗のそんな顔は初めて見た。
「俺の用事は終わったから、出てくよ。じゃあ、また後でな直人」
佐山は挑戦的な笑みを浮かべた表情で悠斗を横目に立ち去っていった。一方、悠斗は明らかに直人との仲を見せつけてきた佐山に対して面白くないと感じた顔をしている。
「高橋先生と佐山先生って仲がいいんですね」
冷めた表情、冷めた声の悠斗はいつと違って、なぜだか落ち着かない。悪いことをしていないのに、怒られている気分になる。
「仲がいいというか、大学からの知り合いなんだ」
直人の友人関係の中で佐山は付き合いが多いため仲がいいほうではあるが、なぜか悠斗には佐山と仲がいいとは言えなかった。
少し間をおいて、悠斗が直人に近づき、手を差し出した。差し出された手は直人の頬の横を通り越し、頭を撫でてきた。
「ど、どうしたんだ!?」
急に頭を撫でられ、直人はこの前と同じように赤面してしまう。
悠斗は頭を撫でていた手を下ろし、次は頬で止めた。
「先生、この前みたいに顔を赤くしてますね。それは、誰にでもですか、それとも俺のことを意識してます?」
急に自分の気持ちを見透かすような悠斗の言葉に、返事をしようにも声にならない言葉で口を動かしていた。
「先生、今日はやっぱり帰りますね。でも、今の質問、しっかり考えてくださいね」
悠斗は答えを言えていない直人の頭をもう一度撫でて、準備室を出ていった。
直人は悠斗が準備室を出てしばらく経っても、撫でられた顔が熱くてたまらないのを感じた。
運命の出会い、見つけました。 @umashiki
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