25.【記憶の海の渡り人】立藤夕貴さん

https://kakuyomu.jp/works/16817330659198856753


あらすじ等(作品ページから引用)

夕日に染まる病室の中、無数の魚を目にする。

横たわる人を取り囲むような光景は子供ながらにも異様だと分かった。

立ちすくむ自分に触れてはいけないよと祖母は言った。


それ以来、時折見るようになった透明な魚。

他の人には見えないらしいそれは、今日もまた電車の中でフワフワと浮遊している。

それほど混んではいない電車の中。降車口付近に背を預けて立ちながらそれを眺める。


特に何をするわけでもない。

害があるわけでもない。

だから自分はいつも、それをないものかのように過ごしていた。


ただ一つ違ったことは。

その日、魚に触れたこと。

それを機に、一ノ瀬和真は自身と同じように魚が見える人と遭遇する。そして、不審な事件を追う中で奇妙な出来事に巻き込まれていく。




※異能現代ファンタジーですが、ヒューマンドラマ寄りの物語です。進行がゆっくりめな作風であるこをご承知いただけますと幸いです。



イラスト

https://kakuyomu.jp/users/tokinote_216/news/16817330660358567754



☆☆☆



第25弾です。

立藤夕貴さん、ご参加ありがとうございます。

がっつりネタバレ含みますのでご注意ください。




今回はご要望頂きまして、「第23話 汚泥に沈む〈5〉」まで読みました。

ゲーム風に言うならチュートリアルが終わったぐらですかね。我ながら台無しな表現ですが。


さて、ファンタジーです。

ファンタジー世界を書きたいというよりも、書きたいテーマを進行するのにファンタジー要素が欲しかったという雰囲気のファンタジーです。

柔らかな表現で書かれてまして、とても読みやすいですし、面白いです。


ただ、こういうサイトでウケるかと言われれば難しいかもしれません。

難しいかどうかというより、個人的にはちょっと勿体ないんじゃないかな、と思ったと言う感じです。

勿体ないというと語弊があるかもしれませんが、しっかり書き上げてどこかの文芸賞とかに応募してみて、外れたらこういうサイトに持ってくるとかでもいいんじゃないかな?とは思いました。


投稿サイトってどうしてもユーザーの需要があるので、需要から外れてしまうと思うような反応が得られないという難点があります。

書き切れてなくても出せるという気楽さとかお手軽さは間違いなくいい部分ではあるんですが。


ネットに公開しちゃうと、公募には参加できなくなりますしね。

でも、価値観は人それぞれ、思惑も十人十色です。


さて、最初読み始めた時は、ファンタジーが書きたいのかな?と思ったんですね。

どちらかと言えば、純粋なヒューマンドラマが書きたいんだけれども、少しカクヨムというかネットにすり寄ってファンタジー要素入れてみましたみたいな雰囲気があるのかなと感じたんです。

でも、続けて読んでいくと、無理にファンタジーに寄せたわけではないのかなという風に変わりました。


話の筋としては、主人公にトラウマというか本人が自己防衛的に忘れている過去があって、人の記憶に触れ、その記憶を乗り越えていく手伝いをしていくうちに、自分の過去との付き合い方とか昇華の仕方を見つけ出すというものになるかと思います。


恐らく、不可視の魚が見えるようになる条件というのもあるでしょうし、見える人たちの共通項もあるのでしょう。

そういう人たちの心の傷をまとめて救っていくような、救世主的な立場に収まるのかなという予想です。


さて、この心の傷を救っていくという部分にファンタジーの要素が必要になったのではないでしょうか。

普通、赤の他人、しかも一介の高校生に自分の性格を作る根幹となっている出来事、しかも本人が隠したい出来事を話すというのは先ずありえなくて、しかし、そこを紐解いていかないとメインテーマが進まない。


じゃあ、見れるようにしましょうということでファンタジーや異能の出番だよということかなと感じました。


妙に嫌らしい書き方になった気がしてますけど、別にここに違和感は覚えてないんです。それは全然かまわなくて、きちんと作品の魅力として取り入れられてるなと思うんですが、引っ掛かるのがこの先なんです。


つまり、異能によって見えた記憶があって、その超常を通じてその人に触れることが出来るという部分です。


ここが「惜しい」と思いました。

拓海の過去を垣間見て、見られたことを本人も分かって、それをキーにして一気に介入できてしまったという部分です。


なんか、せっかくじっくり話が進んでたのに、一気に解決したなあという物足りなさがありました。

問題解決が鮮やか過ぎると言えばいいんでしょうか。


拓海の過去を知りました。

『さてどうしよう?』

こうなったよ。

の『さてどうしよう?』の部分を挟みこんだ方が、話の雰囲気が崩れないのになと。


たぶん、そういう部分の描写とかお得意だと思うんです。

その進んでるんだか進んでないんだか分かりにくいんだけど、振り返ってみると、結構進んでるな、みたいな。

あれ、いつの間にこんなに高く?っていう登山みたいな感動がこの作品の醍醐味じゃないかと思うんです。


最後の解決の部分で、『次行かないと』みたいな焦った急展開があったようで少し残念でした。

全然そんな話じゃないのかもしれませんが。


後、主人公が微妙に鈍いのが気になるんですよね。

心の機微には敏いのに、自分に向けられる恋愛的な好意に鈍い、という、まあよく見かける感性で、箸休め、日常回的なワンクッション、嵐の前の静けさの要素もあるのかとも考えたんですが、そこにアクセントを置かなくてもいいのでは、とは思いました。

今後の伏線になったりするんでしょうか?


さて、今作、心がぎゅっとなるような、心の痛みを表現するのがとても上手な作品だと思います。

間の作り方とかとても素敵です。

進行はゆっくりですが、じっくり感動したい方にはとてもむいてるんじゃないかなと思います。

ぜひ一度、ご一読を。


https://kakuyomu.jp/works/16817330659198856753


改めまして、立藤夕貴さん、ありがとうございました。


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