5.【鬼のいぬまに】 しまうま さん

https://kakuyomu.jp/works/1177354054888578336


あらすじ等(作品ページより引用)

1人の青年がいた。槍を担ぐ旅人である。

ある日のこと、彼の滞在した町に二体の鬼が襲う。鬼を唯一封じることの出来る封師達が来るまでのあいだ、彼は町人達を守るべく鬼の前に立ちはだかった。

しかし、彼の秘密が事態を最悪のものにする……。



この作品はフィクションであり、実在する、人物・地名・団体とは一切関係ありません。



☆☆☆



冒頭の形容が早くも尽きたので、普通に始めます。

第五弾です。

ご協力くださいました、しまうまさん、ありがとうございます。


がっつりネタバレ含みますのでご注意ください。




読む前の印象から。

から、ですが印象というほどのことはないです。

和風ファンタジー滅多に読まないな、というのと、テンプレは嫌だ、みたいな自主企画に参加されてたので、捻ってあるのかなと思ったぐらいです。


和風ファンタジー、漢字が多いので横書きだと読みにくいイメージがあります。

食わず嫌いですね。

はい。


そんな感じで読み始めてみたんですが、とても読みやすかったです。

鬼の暴れ方なんか、結構グロいんですが、そこまで忌避感を覚えませんでした。


何故かなーということで、この辺りを少し掘り下げてみます。

詰まる所、今作のグロ表現って目的ではないんですよね。

たまに見かけますね、グロいのを書くのが目的になってる作品。

それとは違います。


装置としてのグロ表現なので、そこまで忌避感がないのです。

つまり、最終的に、報われる。その落差というかコントラストを作るための表現手段です。


じゃあ何を表現しているのかというと、ポンと浮かんだ言葉は『人間賛歌』です。

月並みですか?笑


第二話で、主人公が「孤独は嫌だ」って呟くんですね。

こんなに早い段階で認めてしまうのが、珍しいな、と思います。


このセリフがポイントで、人のぬくもりとか、心を通わせるとかそういうことがモチーフの作品だろうと思います。


思いついたのは、「冨樫義博」さん。


あの方の作品も、グロい表現が多いんですが、一貫してますよね、人間賛歌。

結構、精神状態心配になるような描写とか、発言があるんですが、実はそれって本質じゃないです。作品全体から人が好きで好きでしょうがない、って感情が溢れてます。

だから、ああやって和気藹々と考察で盛り上がるんですよね。

いわゆる胸糞作品だと盛り上がりません。見たくない人が増えますから。


コンセプトというのかモチーフというのか分からないですが、富樫作品と似たような雰囲気を感じました。

本作の方がもっと素直だと思いますが。


絶望を、力を合わせて乗り越えて、希望を掴むんだ!みたいな話ですね。

テンプレ外しかと思ってましたが、堂々の王道でした。


構造は富樫さんと似てるって言ったんですが、作風というかは違うと思います。

富樫さんにインスパイアされて書いた作品ではないと思うので、違って当然なんですが。


作品に寄せられたコメントでもお見掛けしたんですが、戦闘シーン以外のほのぼのとか、朗らかな表現がいいですね、という評判です。


和風ファンタジーでこういう表現される作風って珍しい気がします。

どこか寒風吹き荒ぶ、という暗いイメージがあります。

最初に言った通り、ほとんど読んだことないので勝手なイメージです。


これって何かな、と思って辿り着いたんですが、作品の書き方が「童話」的なんじゃないかな、と思ったんです。


少し前に馬場さんの作品読んでいて、正反対な言葉の使い方だな、と。

あちらは、とかく語彙が豊富です。

豊富な語彙を並べることで、意味を限定して、読者のイメージを統一しようとしています。

それに対して、本作では、難しい言葉ってほとんど使われていないんですね。


難しいの基準をどう置くかって問題はあるんですが、とりあえず、学校で習わないような漢字は難しい、と仮留めします。


当然、凄惨な表現はあるので、そういう雰囲気のある言葉は出てくるんですが、使われている言葉自体は、それほど珍しいものじゃないです。


よく使われる言葉、つまり共通認識のある言葉を重ねることで、受けるイメージが統一されるんじゃないでしょうか。


そして、これが童話的な表現方法だと思ったんです。

読みやすいとか、風景がありありと浮かぶとかってコメントも見られたんですが、これも童話でよく聞く評価です。


寒さを対にすることで、温もりを浮かび上がらせて、その情景を童話的な表現で表している作品、ではないでしょうか。



そんな中で気になったことを少し。

言葉の説明が一つ目です。

用語解説が途中入るんですが、これは地の文にして作中に馴染ませてしまった方がい好きです。

三人称視点ですし、わざわざ切り離さなくても違和感はないと思うんですが、作者さんのこだわり?好み?かもしれません。


次が感情の表現。

時々、ダイレクトに感情を書いている箇所があるんですね。

迂遠なのがいい、というわけではないんですが、ダイレクトに書かず、読者の想像で補完するような表現の方が余韻があって作風と合うんじゃないでしょうか?

たまに、なのでそこは読み間違えないでという作者さんのメッセージかもしれませんが。


後は、本当にどうでもいいことが二点です。

第一話で村が鬼に襲われて男衆が立ち向かうんです。食われることで時間を稼ぐんだ、って。

この時代の労働力って生産力に直結してるので、働き手を失うと生活が立ち行かなくなるんじゃないかな、と。なので、食われて時間を稼ぐというのであれば、老人とか病人とかが真っ先に盾になるという文化が出来ていると思います。

動物の群れってそういう風にできてますので。

この世界の倫理観に突っ込んでも仕方ないのでどうでもいい話です。


もう一つは晴姫の旅のシーンです。

盲目で大切にされてきた箱入り娘が、何十キロも歩いて旅できるんだろうか?という疑問です。

これこそどうでもいい疑問です。出来たから出来たでいい話です。


ただ、気になったんです。



さて、ダークファンタジーと童話的な要素が掛け合わさった今作、これから鷹丸と晴姫がどう成長し変わっていくのか、ぜひ一度ご一読下さい。


https://kakuyomu.jp/works/1177354054888578336



改めまして、しまうまさん、ありがとうございました。


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