2091_5_IDOL

「5番、今日も外に行くの?」

4番が心配そうな顔で俺に話しかけてきた。

「ああ」

軽く返事をしながらいつものように防護マスクを被り、硝子製のドアをスイッチで開き外に出る。

どんよりとした雲の下に広がるのは砂、砂、砂。踏みしめようと力を入れれば入れるほど滑りそうになる地面、吹き付ける風、マスク越しに吸う息……何もかもが埃っぽい。フィルターで遮られていて入るはずがないのに砂が口に入ったような感じがする。

俺はいつも何かを探している。自分にないものを。

2番は知識を持っている。本で得た物事をいつも色々と教えてくれる。

4番は居れば空気が柔らかくなる。荒んでいる今、それが何よりありがたい。

7番は想像力がある。俺は何にも作れやしないが、あいつはいつも新しいものを出してくる。

考えるが、やっぱり俺には何もない。だから何かを探し続けるのだと思う。

「……休憩するか」

少し休めそうな岩陰を見つけたので、周りに何もいないことを確かめたあと地面に腰を下ろす。

自分の体内チップに入れてあるリトルスターのライブデータを開いた。

それは、小さな、小さな、希望の星。

少女が華やかな衣装をまとい、踊り、歌う。

データの海の中で手を振ったり、微笑んだりしている。

『希望の星はいつもあなたを見守っています』

という言葉とともに。

きらきらした服。

きらきらした笑顔。

データは、データの中だけは、いつも輝いている。

コンセプトは有名なおとぎ話の少女らしい。2番が持っている絵本にその話があった気がする。

人のために全てを捧げ星となった儚き少女。

あのおとぎ話の少女と比べるとリトルスターは華やかすぎる気もするが、喜んでいる人が多いのだから良いのだ。何を隠そう、俺もその中のひとりだ。地下の街ではライブもあるらしいが、地上でしか暮らせない俺には悲しきかな関係のない話だった。地上にいる人間には許可がないと地下街には入れないのがこれ程悔しいことはない。

笑顔を振りまくリトルスターから視線を外して天を仰ぐ。相変わらず、空は曇っている。頭上に星はなく、希望の星は土の下だ。


2091_5_IDOL

-愛される存在、または偶像。童話であり、神話であり、真実である。

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2091 蕗山すい @sui_fukiyama

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