言葉にされてこうなった

束白心吏

本編

知流ともる君、コントしましょう!」

「開幕早々何言ってんの!?」


 急に家を訪ねてきたかと思えばこうである。

 一先ず家に招き入れて先の発言の意図を問い質す。正直彼女のことなので嫌な予感はするが、同時にどこか面白いような気もして……なんか咲姫さきに汚染されてる気がしてきた。悪い気はしない。


「? 何か邪なこと考えました?」

「うん。思考が咲姫に染まってきたなぁと。で、何故に?」

「コンビ芸って、信頼関係の上で成り立ってると思うんです」

「うん。そこじゃなくてなぜアポまでとって今来たかを聞いてるんですがね」


 現在時刻は午後十時過ぎ。十数分前に電話が来たと思ったら『今から行きますね!』と一方的に告げられ本当に来られたのである。あれ、アポイントメントって取り付けるもので押し付けるものじゃなくね?


「コントをするためです」

「堂々巡りしてるし端的過ぎん?」

「態度も堂々としてると思いませんか」

「誰が言葉で遊べと……っ!」


 いやコントも言葉遊びだけども! 不覚にも上手いと思ったけど! ……脱線しかけたがコントだっけか。


「ふと私は思ったのです。コントをする仲とはお互いに信用しあっているからこそボケることが出来る……つまり、お笑いコンビというのは以心伝心と言って過言じゃない、と!」

「思っちゃったわけかー」


 ……実際はそれまでのボケの引き出し量とかから事前に入念な打ち合わせしてるから出来るの間違いだと思うけど、咲姫のいうことにも一理あるのではないだろうか。

 どこぞのお昼のローカル番組に出てる芸人さんはボケ倒してるイメージがあるが、いつかの動物バラエティーに出てた女性コンビや男性コンビの芸人は相方の突然のボケにも見事に乗っかって適切なツッコミをしていた気がする。漫才は台本があるだろうし入念に練習するから少し違うかもしれないが、あれだって信用なくしては成り立たないだろう。


「というわけで早速コントをやっていきますよ!」

「うんちょっと待とうか津木華さん」

「え、ええ突き放さない!? そ、そんな急にプロポーズされても困るというか、その……台本にないことは良くないと思います!」

「恥ずかしがらないで聞いてくれませんか!? いや突き放すことはないし急に名字で呼んだのは謝るけど!」

「あ……ごほん。まあ聞きましょう」


 勢いを削がれて不機嫌そうにする咲姫だけど……うん。これもコントにする気満々というか突っ込ませる気満々にゲ〇ドウポーズ取っていやがるっ!


「つ、ツッコミなんてしないからな……」

「あ、私それ知ってます。ツンデレって言うんですよね」

「何故そこで素面っ!?」


 テンションの落差どうなってんの!? ……とまで言いたいが抑えねば。というか突っ込んでしまったし。

 あと俺はツンデレじゃない。


「ご、ごほん! あのな、確かにコントってのは相方との信頼関係が大事だと思う。それはわかる。わかるけど咲姫、お前は一つ見落としをしている」

「な!? 私が……見落とし? バカな、それは一体?」

「……ノリツッコミだ」

「!? ノリ、ツッコミ……」


 本当に青天の霹靂だったのか、咲姫は驚いた様子で言葉の続きを促す。


「確かにボケとツッコミには信頼関係が必須だ。ツッコミはボケのキャラクター性をきちんと把握することが大事だし、ボケは自分達の持ちネタが輝く瞬間を見極める力が大事になってくる。こういうのが上手い人や慣れてる芸人さんのバラエティー出演は面白いしな。しかしそれだけでノリツッコミはできるか? 否だ。できるかもしれないがそれはコントの中だけの話であり、生放送ラジオやバラエティー番組において即興でボケてツッコミをいれて場を沸かせられるのは本当に一握り。勿論芸風が応用の利く芸人さんやノリツッコミが芸風ってコンビもいるから全てに当てはまることじゃないが、普通のボケとツッコミよりも相方について熟知してなかれば即興のコントで笑いを生むのは不可能に等しい神業であることは明白。つまりノリツッコミこそ、以心伝心という言葉を使うに相応しいと思わないか?」

「知流君ってお笑いの話になると熱いですよね」

「素面返しは恥ずかしいんですが!?」


 語った俺も悪いけれども!


「いえ……ふふっ、私は知流君の熱弁、好きですよ」

「う、忘れてくれ……」

「嫌です。それで、こういう感じのネタをやりたいなーと思って」

「今の流れからもう一度だと!?」


 やめて! 俺のメンタルはどうにかなりそうだよ!




 というわけで今日は見送ることで話がついた。

 ……日付変更まで一時間切ってるなんて現実は見てない。その前に寝ればいいんだ。いいね?

 ただその前に問題がひとつ。


「――ところで咲姫さん? 送迎の車が見当たらないんですが」

「えへへ。今日は知流君がお家に一人と聞いたので、お泊りしたいなぁと言うのが本当のところだったんです。あ、でもコントもやりたかったんですよ?」

「……」


 そこじゃないというか……うん。可愛いから許したくなるけども、どうにかその衝動を抑え込む。突拍子もない発言には慣れたと思っていたけどまだまだだなぁと。厳しさが足りない? 惚れた弱みだよなぁ。


「んー、了解。じゃあ咲姫は俺の部屋使ってくれ」

「え、一緒に寝ないんですか?」

「……俺は客間でも使うから」

「? 婚約者なんですし同衾の一つや二つ問題ありませんが?」

「問題しかありませんが?」


 主に俺の理性的な方面で。というか婚約者て、俺その言葉をフィクション以外で初めて聞いたわ。

 ちなみに俺達の仲は両家から認められたものではある。俺の親は大歓迎だったし、あっちも少しおかしいながらも邪険にされるようなムードではなかった。あ、でもなんか咲姫の親なんだなぁって感じはした。うん。だからまあ……婚約者でいいのか? 俺もその気はあるし――思考がそれた。

 俺とて一般的な思春期男子。何故か咲姫からは疑われるが性欲もきちんとあるけどそういえば自称しないよなモノホンの『一般的な思春期男子』なら。しかし俺は一般的と自称し続けるが! 一般とはって話になったら答えられる奴はいないと思ってるし。

 そんな脱線しかけた思考はさておき、だ。

 あまり言葉にすると気恥ずかしい事ではあるが、俺は咲姫のことを異性として見ている訳で、襲わないって確約することができないのだ。できて善処。贔屓目もあるが、咲姫は本人が想像している以上に整った容姿をしてるのだ。もう少し危機感を持って欲しい。


「……本当に駄目、ですか?」


 しかしそんな俺の内心を知る由もない咲姫は更なる追撃を仕掛けて来る。

 うーん販促……じゃない反則だろコレ。無理。抵抗の気が失せる。えぶしっ。


「……今日だけ、だからな」

「! ありがとうございます!」

「……おう」


 うーんいい笑顔……今思ったけどこの流れ、もしや咲姫の策略か?


「……ところでコレも狙ってたのか?」

「? 何の話ですか?」

「……」


 あーハイハイ天然な方ですか。そうですかぁ……。



 ……今夜は長い戦いになりそうだなぁ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

言葉にされてこうなった 束白心吏 @ShiYu050766

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ