力の均衡が崩れた日

「ありがとう、私のこと思い出してくれて」



今更、勘違いしてましたとは言えないな。


隣には木野崎恋、姫様がいる。



花火の音でホールに居た人たちもバルコニーに出てきていた。


みんな初めて見る花火に心奪われていた。


束の間の夜空の饗宴に多くの者が酔いしれた後、暫くしてミネルヴァ姫様のバースデーパーティーも終宴となった。


後に王都では花火が流行りとなり人々を楽しませたのは言うまでもない。





「それより姫様、何故に兄様に引っ付いておられるのですか?」


「アムシャさんハルワタートさんに説明してあげてください。私とあなたの関係を、やっと運命の再会を果たしたんです。もう放しません」


「ごめんねハル、ちょっと二人にしてもらっていい?」


「解りましたちょっとですよ」しぶしぶハルワタートが出て行った。





二人になっても離れない姫様に離れるように言って話をすることにした。


「ミネルヴァ姫様」


「ミネルヴァでいいです、姫様はいりません」


「いやいや、それは不敬に当たります」


「本当にこの世界に染まっているんですね」


「一応、貴族ですからそれなりの教育は受けました」


「私の前では康介君のままでいいんですが」


「誰が見てるか解らないんですよそういう訳には」


「むっ!!」


「怒ってもだめです。ただ、かわいいだけですから」


「…しょうがないですね」


「でも、姫様とアムシャの立場で話すのは少々無理がありますね。色々と問題になりそうな立ち位置ですし聞きたいこと、話したいことは山ほどありますが、この世界にはスマホとか無いので会って話すしかないんだけど、…何かいい手は無いですか?」


「康介君って転移魔法使えたよね」


「だから、康介君はだめでしょ、って王城に空間移動して来いってこと?」


「そっ、私の部屋に空間移動してきてくださいな。それがベストだと思います」


「んん?それも何かと問題ありそうですが…それしかないかな」


「そうと決まれば私の部屋に行きましょう」


「姫様になって、すごく積極的なんだが」


「何か?」


結局、ハルワタートも誘って姫様の部屋に行くことにした。




姫様の部屋は、一言でいうとやはり王族って感じの豪華な部屋だった。


ハルは色んなインテリアに魅入っていたが、僕には豪華なインテリアとしか思わなかった。


「ハルワタートさんもアムシャさんも今日一日一緒に過ごしたからお友達ですよね」


姫様が突然、お友達宣言してきたがハルは返事はしなかった。


「ハル…、今日は何か考え事ばかりしてたよね」


「兄様……、私は…、本当は兄様の秘密を知ってました。アムシャ・ジユニ・フラウミルヒではない兄様のこと。葛城康介って別の名前があること。木野崎恋が好きなことも」


「「えっ!!」」ミネルヴァ姫様と二人で驚いた。


「なんでハルワタートさんがそんなことを知っているの?」

ミネルヴァ姫様は純粋に疑問に思ったことを聞いてみた。


「私の精霊様の力。時々、アムシャに変身してもらって色々話してたんです。だから、兄様が私のこと木野崎恋だと勘違いしていることも知ってました。守ってくれるっていうのも私じゃなくて木野崎恋のことなんだろうなって気づいてました。そしたら本物の木野崎恋が出てきたから…、なんとなく姫様がそうなんだろうという予感はしてたので。だから、姫様のバースデーパーティーに行かないようにしてたんです。でも、運命は変えられないんだって解った。……ごめんなさい」ハルは悲しそうにそう言った。


「ハル、ありがとう。僕はハルが木野崎じゃなくても守るよ。ハルが大事な人には変わらないから、僕の方こそごめんね。色々、気を遣わせたね」


「ハルワタートさん、私は転生したときから必ず、康介君もこの世界に居ると信じてました。公爵家の双子が同い年で同じ誕生日って聞いたときは、きっとアムシャさんが康介君だと確信しました。なので、ブラフマー様との婚約も私の意志で受けませんでした。今も、康介君が好きなんです。私たちの前世の最後は悲しいものかもしれませんが、それでも諦め切れなかったから今の世界に転生したんだと思います。今は王女と公爵家の子息、令嬢の立場ですがきっと分かり合えると思っています。だからお願い私にハルワタートさんの力を貸してください。私と友達になってください」


ミネルヴァはそう言ってハルワタートに手を差し出した。


ハルワタートはその手を握って「こちらこそよろしくお願いします」と言った。


こうして、最強のチート持ちの双子の魔法使いが第三王女の力となることとなった。




王都の公爵邸に戻った二人はお父様に呼び出され執務室にきていた。


「アムシャ、ハルワタート随分遅かったね。第三王女様と仲良くなったのかい?」


「ええ、お父様アムシャも私も大変仲良くなりました。パーティーの後、姫様のお部屋に招待されていました」


「そうか、ハルワタートも姫様と仲良くなれて何よりだ。ところでアムシャよパーティーの前も後もお前と姫様が抱き合っていたという噂があるんだが本当か?」


「本当ですが、そんな変な意味はありませんよ僕たちまだ子供ですし、でも好意的なのは否めませんが」


「なるほど、しかし王家も第三王女とアムシャの婚約は認めないだろうな、公爵家としては嫡男のブラフマーと第二王女の婚約が決まったばかりだからな、おそらく第三王女は他の有力貴族か他国の王族に嫁ぐ事になるだろうな」


「はい、それは……解かっています」


「まっ、そんなに気落ちするな。お前たちの仲を裂こうなどと思う輩も多かろうが他に手がないこともない」


そういうと父親の公爵は悪い笑みを浮かべた。


「実はなアムシャ、ハルワタートどちらかに母親の実家、スタンブロー公爵家の養子になってもらいたいのだ。君たちのおじい様、シュマシュ・ナンム・スタンブロー公爵には男児が二人いたのだがお前たちが生まれる前の戦で亡くなってな、その時に跡取りがいない状態なので自分たちの娘の次に生まれる子供を養子にしたいと言ってきてたんだ。そうして生まれたのがアムシャとハルワタートの双子だった。親としてはすぐにどちらかを養子にすればいいという結論にはならなくてね二人が互いに考える年になったときに決めさせようという事になった。スタンブロー公爵領は魔の森を抱えてる上に隣国との国境にあるから有事には大変だがお前たちならどちらが跡を取っても大丈夫だと信じてる」


「お父様、アムシャ兄様と別れるのは嫌です。二人ともスタンブロー公爵のお爺様のところに行きます。そのほうが公爵領を、この国を守るのに確実だと思います。そうですよねお兄様」


「ハルがそれでいいなら僕も文句はないですが、お父様はそれで大丈夫ですか?おそらくですが僕とハルワタートは王国屈指の魔法使いですよ、それが国境に居るだけで他国の抑止にはなりますが、逆に挑発行為とも受け取られかねません」


「確かに、アムシャの言うとおりだが国境に最高戦力を置くのは他国とて同じこと、まして魔の森という脅威がそこにある以上それに対処するのが国というものだろ、お前たちがそこまで心配する必要はないさ、それにもう暫くすると王国内も荒れる。権力争いが起きるとみておる。国王と宰相はそれを踏まえたうえで第三王女をお前に託したんだろうよ。とにかくわしは公爵家は第二王女を守る。アムシャ、ハルワタートはスタンブロー公爵家として第三王女を守ってくれ」


「「解りました」」二人して返事を返し父親の執務室から退室した。





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異世界転生した双子の兄は大好きなあの子を守りたいので最強の魔術師を目指します。 虻川岐津州 @pee_kar_boo

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