Happy birth day to you and me.

第三王女様の誕生パーティーは、城内の大ホールで開催される。


王国内のすべての貴族の10歳を迎える御子息、御令嬢に招待状を送ったらしく、御子息、御令嬢に加え家族、身内までもが参列するという盛大な誕生パーティーになるという。



初めて王女様のバースデーパーティーに出席する僕たちは会場の下見に来ていた。


「この中で王女をエスコートするのか⁉しかも、ファーストダンスまでしろというのは何の嫌がらせなのか…」


隣にいるハルに散々愚痴を言って気分をすっきりさせてやろうと考えていたのだが…ハルのエスコートって…何故に僕?



星の精霊ティシュトリア様に変身させた僕がそこにいた。


「ハルさんや流石に僕が2人いるのは問題しか無いことないですか?」


「アムさんやいいとこに気が付きましたね。実は、姫様のエスコートをこのティシュに任せようかと思っています。どうです?」


「それは良い考えですね……。なんて言うと思う。無理に決まっているでしょ精霊様の声は契約者にしか聞こえません。さすがに無言は無礼です」


「よく解ってるじゃないですか。じゃあ、諦めて姫様のエスコートをして下さいな」


「むっ‼愚痴を聞くぐらいいいじゃないですか。ハルにしか言えないんですからっていうかハルだから言えるんです」


「兄様は、いつもずるいです」顔を真っ赤にしたハルワタートはやっぱりかわいい

 散々、僕をいじってくれたので仕返しとばかり本音を打ち明けるといつも嬉しそうな顔をする。




「二人で、イチャイチャしないでください」王女様がムッとして話しかけてきた。


「ところで、どうしてアムシャさんが2人もいるんですか?」



「あっ‼……ひ、ひとりは精霊様です。…姫様はどちらがお兄様かわかりますか?」

ハルワタートがしまったと思いながら、咄嗟に王女様に問題を出して、その場をごまかした。


「簡単な質問ですね。アムシャさんはこちらです」


王女様は一瞬に詰め寄り本物のアムシャに抱き着いた。


「えっ!!あわゎわぁ~」驚いたアムシャは変な声を出したが王女様は気にしないとばかりにアムシャに更に抱き着いてきた。



「ちょっと王女様!身分をお考え下さいまし、……お兄様から離れてぇ~!!」


王女様の奇行に、問題を出したハルワタートのほうが動揺した。


「うふふ♡ハルワタートさん。今日は大好きなお兄様をお借りしますね」


10歳の少女とは言え一国の王女様が抱き着いているのは、うれしいやら、怖いやら、かわいいやら、……やっぱり幸せなのか。


「残念だけど、そろそろ離れますね。アムシャさん♡」と言って王女様は離れたが、

離れ際に耳元に小さな声で「やっと見つけました」と言った。


「えっ!!」何のことなのか見当も付かないアムシャは、また頭の中が疑問符だらけになった。





王女様のバースデーパーティーは盛大に行われた。


入場する際、フラウミルヒ公爵家のご子息がエスコート役ということで、早耳の貴族連中にはすでに“神の加護持ち”の話は届いていたため、ある意味、王女様より目立っていた。


「何か視線が痛いですね。王女様はいつもこんな感じで注目されるんですか?」


「注目されているのはあなたよ。アムシャさん」


「一貴族の子息が注目される訳ないじゃないですか」


「解ってないですね。アムシャさんは神の加護持ちでしょ、しかも世界を作った創造神エンキ様の」


「えっ!!そんなにすごいことですか?」


「創造神エンキ様と言えば、この世界の最高神の一人ですよ」


(おかしいな、僕のほうが魔力量が上だって言ってましたけど……。)




「ほう、あれが神の子だというのか。ただの貴族のボンボンだろうが」


「見た目で判断してはいけませんよ。セルジュ卿、彼はああ見えてフラウミルヒ公爵家の人間、ただの貴族なんてことはありませんよ」


「あいつさえいなければ、我が息子が王女のエスコート役だったのに、今年の精魂式で3属性の魔法使いとなった我が息子のほうが見た目も強さも上だろうが」


「しかし、セルジュ卿。今年の10歳はそろいもそろって化け物ぞろいという噂ですよ。ご子息ヴァーユ様も含めてね。それになんでも姫様が彼にご執心の様ですよ。パーティーの前に抱き着いてるところを何人かに目撃されてますからね」


「おおかた姫様の弱みでも握っているんだろうよ。神の子というのも本当かどうか」



「おお、こんなところに居ましたか。クベーラ・ソムニス・セルジュ伯爵、エレポス・エムス男爵も向こうでハリハラ・ヤマ・ヘネシー侯爵様がお待ちですよ」


「これはこれは、パルジャニア伯爵殿どうもありがとうございます」


「子供たちの未来について語っておりました。私の息子も姫様と同い年なのでね…。すぐにそちらに合流しますよ」


「セルジュ伯爵、エムス男爵、では先に行っております」


そう言ってオーケアノス・シーア・パルジャニア伯爵はハリハラ・ヤマ・ヘネシー侯爵のほうに去ってしまった。





歓談の時間も終わり、音楽もダンス用の曲調に代わり、今日の主役、第三王女、ミネルヴァ・メディカ・ディー・コンテンティスへと視線が集まった。


「アムシャ・ジユニ・フラウミルヒ様、よろしくお願いしますね」


「はい、ミネルヴァ王女殿下、私と踊っていただけますか?」とアムシャが手を差し出し「喜んで」とミネルヴァが手を取り二人はファーストダンスを踊り始めた。


二人のダンスは初めてとは思えないほど息があったもので、小さな男女のカップルをその場にいた全員が注目することとなった。




優雅な二人とは別のところに居たヴァーユ・ソムニス・セルジュだが面白くなさそうにホール中央でダンスをしている二人を見ていた。


「ヴァーユ様、不機嫌が顔に出てますよ」


「ファーストダンスの相手は俺だったのに、アムシャとかいうやつがしゃしゃり出てきやがって、ミネルヴァは俺のものだ‼」


「声が大きいですよ…。ああ見えてあいつは公爵家ですよ。それに姫様にその言い方は不敬罪にあたりますよ」


「どうせ誰も聞いてないだろ。グスタス、お前あいつ殺してこい」


「何言ってるんですか。訳解らないこと言わんでくださいよ。嫌ですよこっちが殺されますよ。それよりもこの後、姫様をダンスに誘わないと」


「おおそうだな、ミネルヴァ姫は俺の誘いを待ってるな!行くぞ、グスタフ」




ダンスを終えてホールの隅でハルワタートと寛いでいた。


「アム、姫様を放っておいて大丈夫ですか?」


「大丈夫ですよ、それより次から次へと人が来るので疲れました。大体、主役じゃない誕生日会なんて退屈なだけですよ」


「本当です。初めてですね大きなパーティーに出ることも、アムと離れ離れの誕生日も…、こうやってだんだん大人になっていくんですね」


「もし…、もし僕らが離れ離れになっても必ず僕がハルを守るからそれは絶対だから、ハルは僕の大切な人だから」


「……、ありがとう」


いつもなら、顔を真っ赤にして俯くハルワタートだが今は、ただ何かを考えこんでいるようだった。




アムシャがハルワタートと話している間にミネルヴァの傍にヴァーユ・ソムニス・セルジュとグスタフ・ド・スタールの二人が来ていた。


「ミネルヴァ女王殿下、本日は10歳の誕生日おめでとうございます」

「誠におめでとうございます」と二人は挨拶した。


「有り難うございます。ヴァーユ・ソムニス・セルジュ様、グスタフ・ド・スタール様」


「先ほどは見事なダンスで観衆の注目を集めていましたね。私とも踊っていただけますか」と言ってヴァーユは右手を差し出した。


「申し訳ございません、少々、人に酔ったみたいなので暫く退席させていただこうかと考えておりました。失礼します」そう言ってミネルヴァはアムシャとハルワタートのほうへ行ってしまった。


「ヴァーユ様、振られましたね」グスタフがへらへらとヴァーユを揶揄っていたが、どう見ても機嫌が悪そうなので「ヴァーユ様、誰か他の令嬢を誘いましょうよ」


「畜生…、あいつめ後から出てきてミネルヴァ姫様を……、ムカつく奴め。何とかしないと、父様に…」


「ヴァーユ様?」




アムシャとハルワタートのもとに少々機嫌の悪いミネルヴァがやってきた。


「アムシャさん、今日のあなたは私の騎士ですよ。なるべく傍に居てくださいな」


「失礼しました。姫様、少々人に酔いました」


「先ほどの私と同じ言い訳をされるんですね。まっ、いいです。今日はアムシャさんもハルワタートさんも誕生日ですものね。私ばかりが楽しんでは申し訳ないです」


「それより姫様、先ほどから2名ほど人を殺しそうなくらいの視線を向けてくる方がいるんですがご存じないですか?」


「あの方たちはヴァーユ・ソムニス・セルジュ様とグスタフ・ド・スタール様です。セルジュ伯爵様とスタール子爵様のご子息ですね」


「おおかた、嫉妬か何かですね。ミネルヴァ姫様、ハルワタート、少し、風にあたりませんか?」そう言って二人を王城のバルコニーに連れ出した。


「でわ、ミネルヴァ・メディカ・ディー・コンテンティス王女殿下、ハルワタート・ジユニ・フラウミルヒ、お二人に僕からのプレゼントです」


そう言ってアムシャが満点の夜空に手のひらを広げると、大空に花火が上がった。


それは、転生前に自分たちの町で上がっていた花火に似ていてアムシャとしては、ハルワタートが前世の記憶を思い出してくれたらいいなという気持ちがあった。


「兄様、すごく綺麗ですね。光魔法ですか?火魔法ですか?初めて見ました」


次々と夜空を染めるように上がる花火を、ハルワタートは嬉しそうに見ていた。



ふと、ミネルヴァ姫様のほうを見ると涙をながしていた。


「えっ!!」


「……こ、こうすけくん。…やっと、会えました。やっと、思い出してくれたんですね。私は、ずっとあなたのことを探していました。きっと、あなたもこの世界に居るはずだと信じてました」姫様が涙を拭きながら言った。


「……………」



ミネルヴァ・メディカ・ディー・コンテンティス、王女様が木野崎恋なのか?



ハルワタートが木野崎恋だと思って疑わなかった自分には予想外すぎて言葉が出なかった。
























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