もうひとつのプロローグ

高校受験の前日、コンビニで夜食のアイスクリームを買いに出ていた私は、たまたま葛城康介って男子の生徒手帳を拾った。


生徒手帳には、学校名、学年、名前、顔写真があったため隣の校区ということが分かった。


レジに落とし物として届けようと思っていたら、お弁当コーナーのところで葛城康介君を見つけたので声を掛け生徒手帳を渡すことにした。


「葛城康介君、生徒手帳落としてたよ」「あ、有り難うございます」


落した生徒手帳を渡しながら、近くで見た葛城君はすごく綺麗な目をしていて心臓のドキドキが聞こえそうで恥ずかしかった。


(自分のことながら実に単純で情けないくらいチョロい)


「君も、明日高校受験?お互い頑張ろうね」それだけ言うのが精いっぱいだった。


アイスクリームを買ってレジを済ませ解けないうちに帰ろうと慌てて外に出たらコンビニの駐車場のところで高校生っぽい3人組に呼び止められた。


「君、かわうぃね。僕らと遊びに行かない?」


「どこの高校?同い年くらいだよね」


「こっちにおいでよゆっくり話そう」って言って腕をつかまれた。



「やめてください」精いっぱい大きな声で叫んでた。(誰か助けて。)


誰かが私と高校生たちの間に入って来た。


さっきの葛城君だった。


「何してるんですか。この子嫌がってるじゃないですか」と言って

「お前には関係ないだろ」「今から俺たちこの子と遊びに行くんだよ」

葛城君が言い合いをしてる間に逃げよう。


最後に見た時「ガキはさっさと帰って寝ろ」って胸倉を掴まれてた。


「ガキって、お前らもあまり変わんないだろ。さっさと帰って寝ろ!!」


口論がだんだん小さくなっていく。


早く帰ってアイスクリームを食べなきゃ、解けてしまうとか言い訳しながら最低な私は逃げていた。(葛城君、ごめんなさい。私は卑怯だ。)


泣きながら必死に走って家に帰った。



自分の部屋に入ってアイスのカップを机においてそのままベッドで横になった。


さっきの出来事、何もできなかった自分。


葛城君を犠牲にして逃げ出した自分。


(御礼も、謝罪も何もできてないんだ…。)



なんか全てが嫌になった。





そんなことを考えていたらいつの間にか眠っていた。




次の日、高校受験当日、昨日のこともあり頭もしっかりしていない、決してベストな状態ではなかった。


それでも、葛城君に受験頑張ろうといった手前、気合い入れていかないと昨日、何もできなかったリベンジだ。シャワーを浴びて、頭をすっきりさせる。


受験に行く準備を整え家を出た。


高校に向かう途中、慣れない通学路にキョロキョロしていると前のほうに葛城君ぽい人を見た。


昨日の御礼を言おうと駆け寄ったけど、大勢の受験生の中だったので見失ってしまった。


(葛城君もこの高校受けるんだったら絶対合格しないと)益々気合いを入れた。



その後も気にしていたが葛城君を見つけることは出来なかった。


そんな気もそぞろな高校受験を終えた私は合格発表まで気が気でなかった。



合格発表の日も自分の受験番号よりも葛城君がいないか探してた。


自分の番号があったので一安心したけど葛城君を見つけることは出来なかった。


そして入学初日、私はA組になった。


クラスの中に葛城君はいなかった。


入学式の間も、教室に戻る途中も、時間があれば探してた。



2日目、朝から嫌なことがあった。


コンビニで声を掛けてきた人たちが同じ高校だったこと。


A組の教室に入ってきて、私に馴れ馴れしく声を掛けてきた。


無視していたら、クラスのみんなが怪訝な目で見ていたので居た堪れなくなって教室から出て行ったけど私一人だと怖くてどうなるだろう。


そのあと、B組の教室に入って行ったみたいだった。


放課後、中学の時の同級生の酒井藤四郎君から「校舎裏に来てください」と呼び出されたので行くことにした。


今朝の嫌な先輩たちのこともあるので酒井君に相談しようと思ってた。


そしたら校舎裏に居たのは男子2人で酒井君と葛城君?


「え~と」


二人同時に振り返り、やっぱり葛城君だと確信した。


「酒井君と葛城…君、二人共、私に何か用?」私が訪ねると、酒井君は恥ずかしそうに「康介。ちょっとあっち行っててもらっていい?」「あっおう。がんばれよトーシ!!」

やっと目当ての葛城君に会えたのに、当の本人は立ち去ろうとする。


私は慌てて葛城君を呼び止めこの前の謝罪をした。


「葛城康介君、この前はありがとう、それとごめんなさい。怖くなって逃げちゃって。今朝、あの人たちが教室に来たんだよ。同じ学校って最悪だよね。また、声かけてくるのかな」そう言った後、自分の名前言うの忘れてたことに気づいて

「あっ私、A組の木野崎恋。よろしくね」と自己紹介した。


「俺はB組。あいつらは何とかするから心配すんな!じゃあな!!」そう言って葛城君は去っていった。(やっぱりかっこいいな)



残された、同じ中学出身の酒井藤四郎だが木野崎恋の行動で葛城康介への気持ちを悟ってしまい。


今から告白しても絶対無理だなと確信してしまったが事前に決めたことなので玉砕覚悟で告白した。


「木野崎恋さん、中学の時から好きでした。付き合ってください」と案の定、


「ごめんなさい、気になる人がいるので付き合えません」と断られた。



「だよね、今の康介見てた木野崎の顔見たら断られるの分かったよ。康介とは今日、今さっき友達になったばかりだけど木野崎が好きになるのも解るわ」


「えっ!!そんな顔してた。葛城君のことぉ、別にぃ好きじゃないよぉお」


「顔を真っ赤にしてそんなこと言っても説得力無いわ」


「ところで葛城君とどうやって友達になったの?私もなれるかな?」


「っつ、あのなさっきふったばっかの俺にそんなこと聞くか?……康介は、悪い奴じゃぁないの木野崎も解ってると思うけど。普通に友達になってくださいとかでいいんじゃない。木野崎、可愛いし…、俺あいつに聞かれたらいい子だよって言っとくわ」


「あ、ありがとう」


「じゃあ、俺とも友達ってことでいいよな?こんなこと言っちゃなんだけど、まだ木野崎のこと諦めてないからな。じゃあな、気を付けて帰れよ」


最後に、未練たらしいことを言って酒井君は帰っていった。



帰る途中、校舎の入り口で葛城君が先輩たちに土下座しているところを見てしまった。(私のためにそこまでしなくてもいいのに)


そんなこともあって葛城君には近付き難くなってしまった。


(無関係を装ったほうがいいかもしれない)


それでも、葛城君が部活で剣道部に入ったので隣の弓道部に入ったり、昼休みは購買にパンを買いに行ってるみたいなので偶に買いに行ってみたり、駅前のカフェでバイトを始めたって聞いて、友達を誘って見に行ってみたりとストーカーみたいなことをしてた。



高校1年の時はそんな感じで、彼が部活でどんどん上達していくのを自分の部活の休憩時間にドキドキしながら見てたし、バイト先のカフェでは他のお客さんが彼のことを話しているのを聞くともやもやしたり、昼休みの購買は私が行く頃にはすれ違いになったりと相変わらずストーカーみたいだなと思った。




高校2年になって、葛城君と同じクラスになった。


しかも、席が隣というサプライズ付き。


葛城君の席は窓際の一番後ろで私の席はその隣なので私しか横に居ない状況といういわゆる恋人席♡って勝手に命名した。


自然と会話するようになってきたのでつい噂になっていることを聞いてしまった。



「葛城君って、彼女いるって噂だけど本当?」結構、真剣な顔で聞いてしまったため、いつもの会話じゃないと思ったのか葛城君も真剣に答えてくれた。


「いないよ。その噂だけど、1年の時に先輩が木野崎の教室に来たことあっただろ。あの時、お前に誘い断られてから俺んとこ来た時に“彼女に先輩には優しくしろ”って言っとけって言ったのが事の始まり、つまり木野崎、お前が俺の彼女って事になってるし、そもそもみんなの勘違いだな」


(えっ、そんなことがあったなんて…私が彼女)顔が熱いのが自分でも解った。


「そんなに怒んなよ。みんなは誰が彼女かなんて知んないし、トーシにもそこまで言ってないから」


恥ずかしすぎて耐えられなくなったので、そのまま立ち上がって教室を出て行った。


(それじゃあ、私が彼女になってもいい?……。言えない、言えるわけない、ああ、どうしたらいい?誰かおしえて。)





暫く悩んだある日、教室で仲のいい友達と話をしていた。


「最近、罰ゲームで嘘告するのが流行ってるんだって」


「そうなの、でも罰ゲームはしょうがないとして嘘告っていうのは相手もいることだし、だめだよね」


「そういうことしてる子って軽く考えてるんじゃない。恋に告白してくる男子もそんな子もいると思うよ」



「恋は、気になる子いるんでしょ?告白してみたら」


「葛城君でしょ。気になる子って恋の態度見てたらバレバレ。葛城君に“罰ゲームで嘘告”ってことにして告白してみたら」


「嘘告の嘘告ってこと?何か、訳が解らなくなるね」


「今更だけど、葛城君のことは否定しないんだね」



「解った。葛城君に“罰ゲームで嘘の噓告”してみる。みんな応援してね」


「でも、葛城君って彼女いるんでしょ。噂になってたじゃない」


(みんな、噂の真相は知らないんだ。)


「じゃあさ、断られても『嘘告なの、テヘッ!』みたいなので行けるかもね」


「恋、可愛いしそれありだよね」


「ねぇねぇ恋、テヘッ!ってしてみて」



嘘告っていう偽装で勇気を貰ったけど、ちょっと気が引けるのも事実だ。


それでも、その時はみんなでワイワイ盛り上がって女子会を楽しんだ。




次の日、早めに登校して葛城君の靴入れに手紙を入れる。


教室で何度か葛城君が何か言おうとしてる様に見えたけど、顔を見るのも恥ずかしいので知らないふりをした。


今日の放課後、私のこれからが変わるんだって思ったら気が気でなかった。



授業も頭に入らないまま一日が過ぎ、放課後になった。


校舎裏に向いながらも、なんか気持ちが落ち着かない。



校舎裏に着いて待っている間、なんて言えばいいかなった考えていたら、突然上から何か落ちてきてそれが葛城君だってわかった瞬間、眩しい光に包まれて記憶が無くなった。




これって死ぬってことかな……………。
























































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