第三王女ミネルヴァ
10歳の誕生日を迎え僕たちの精魂式を行うこととなった。
この度は、第三王女様の精魂式を行うということで、大神官様は王都の教会から公爵領の教会に来てもらえなかったので、僕たちが王都に移動することとなった。
今回は馬車で移動している。一応、僕もハルワタートも姉様も空間移動の魔法を使うことができるが、僕たちは未だ使えないことになっている。
姉様も魔力消費量が多いし王都までの道すがら観光したいということで魔法の行使を断り、のんびり馬車の旅になった。
ちなみにお父様とお兄様は王都に用事があるとかで先に王都入りしている。
「まさか、第三王女と僕たちが同じ誕生日だって思わなかったね」
「何を言ってるんですか!兄様、毎年バースデーパーティーの招待状が来てたじゃないですか。私たちが欠席してただけですよ。王女様に謝らないとですね」
隣のハルワタートは呆れたようにそう言ったが僕は全く覚えがない。
僕らは僕らで公爵領でバースデーパーティーをしてたから王都まで行くこともなかったし王女様に興味もなかったからだろう。
「アムもハルも第三王女と同じ誕生日って何か運命を感じませんか?」
姉様にそう言われたが全くそんなものは感じない。
「姉様、いつのまに僕とハルワタートがアムとハル呼びになったのです?」
「10歳の誕生日を境にですね、そう呼ぶことにしました」ってにっこりしたので
「誕生日は明日なので明日からですよね。でわ、僕も姉様のこと、ヴィシュと呼ぶことにします」って返したら姉様は顔を真っ赤にして「あわわわぁ…」言いながら俯いてしまったので「冗談ですよ。姉様をヴィシュなんて恐れ多くて呼べません」
「ヴィシュヌ姉様は本当にアムが大好きですね」ハルも負けじとアム呼びで返す。
「ハルも兄様呼びを変えるんですか?」
「はい、私のことはハルって呼ぶので私も兄様のこと、アムって呼びます」
「僕達、双子だからそれがいいと思います。本当はどっちが兄か姉かって問題ではないので、僕にとってはハルワタートはハルです」
「私は、アムにハル姉様って言われるより兄様って呼ぶほうが好きですけど」
他愛もないことを話しながら馬車での時間を楽しんでいたらお母様から明日の予定を告げられた。
「ところであなたたち、明日は精魂式の後、王女様のバースデーパーティーに参加しますのでそのつもりで」楽しい話の間にそんなことを言ってきた。
今まで参加してなかった分、かなり行き辛いのだが何とかならない。
「アムシャ、そんな顔をしてもだめですよ。明日の予定は絶対です」
「やっぱり無理ですか」顔出しだけして、こっそり空間移動で家に帰るかな。
のんびり馬車の旅も5日目、王都の大門が見えてきた。
「流石、王都ですね。大勢の人や馬車が関所のところで並んでますね。あの列に並ぶのは骨が折れますね」とハルが疲れた様子で言うとお母様が「私達は別の入り口から入れますので大丈夫ですよ」と言った。
そちらの入り口はたいして並んでおらず馬車の紋章だけ確認されそのまま通れた。
セキュリティ対策を考えたほうがいいと思う。
すんなり通れた後、大通りを王城に向けて進むと街中の景色が端正な住宅街に代わり、次第に大きな屋敷がぽつりぽつり見えてきた。
その中でも目立つくらい大きな白亜の屋敷が公爵家別邸“王都の我が家”だ。
学園に入学すると、ここから通うことになる。
正面入り口に馬車を横付けして、みんな降りると一斉に伸びをした。
執事とメイドの皆様に迎えられ屋敷の中に入った。
お父様とお兄様は未だ王城のほうに出掛けているようなので、僕らはそれぞれの部屋で寛ぐことにした。
やっぱり部屋は落ち着くね。
そうだ後で、浴場にいこう。
浴場で旅の疲れを流して部屋で落ち着いているとお父様達が帰ってきたと聞いて皆で夕食の席に着いた。
「遠いところすまないな。今回の精魂式は王女が主になるので、こちらが出向くことになってしまって、今夜はゆっくりするがよい。ところで、アムシャ、ハルワタートお前たちは王女と同い年ということもあって王女がどうしても会いたいと言ってきている。でだ、明日のパーティーだがアムシャお前にエスコートをして欲しいと言ってきているのだが頼めるか…というか頼む」
お父様が何か控えめに話していると思ったら、最後に頼み事というか命令だよね。
「断れないというのは分かりましたのでお受けします。後は、帰ってもいいですか?」エスコートはしょうがないとして後は帰りたい意思を伝えると
「アムシャ、帰ることは出来んぞ。エスコートの後はダンスだ。パーティーの終わりまで王女様と一緒に居なさい。そういう役目だ」
自分の誕生日にホスト役ってどんな罰ゲームなんだか。
でも、おそらく王命なんだろうな。お父様も大変だな。
同い年の上級貴族の男子に白羽の矢が立ったか。
「お父様とお兄様の王城の用事って、こんな事じゃないですよね」
「ああ、ブラフマーと第二王女の婚約の話が来てな。当初は第三王女と婚約って話になっていたそうだが第三王女がまだ10歳にもなってなかったので第二王女とということになった様じゃ」
「それは、目出たいことじゃないですかお兄様おめでとうございます!」
ヴィシュヌ姉様がお祝いの言葉を言うとブラフマーお兄様が少し困った顔で
「あんまりめでたい話でもないんだがな、政治的なにおいがプンプンする。大方、俺の魔法や精霊の力に興味があるだけだろう」
「確かに兄様の精霊様は国を傾けるくらい強力ですよね。姉様の精霊様と組めば、この国くらい落とせそうです」
「アムシャは私と兄様で国を落とせと言っているのですか?たとえ落とせる力があってもそんなことに使うつもりはないですよ」
「姉様は優しいです。でも、世間は、他の貴族はそんな目で見てるってことです。強力すぎる公爵家の力を、きっと妬ましく思うはずです」
「アムシャの言うとおりだ。国王も宰相もそのことを、よく考えて婚約という決断に至ったようだ。それとブラフマーは今年、第二王女が魔法学園に入学するのと同時に王女の騎士として魔法学園に入学する。ヴィシュヌも1年早いが特待生として魔法学園に入学することが決まっている」兄様も姉様も国の管理下に置かれるんだな。
もし、明日の精魂式で僕とハルワタートの魔法適性が強力だとどうなるんだろう。
そんなことを考えながら眠りにつくのだった。
精魂式の朝、身だしなみを整え王都の教会に向けて出発した。
王都の教会は、公爵領の教会より大きく王都の中でも王城の次くらいの大きさがあった。
僕達の馬車が到着して、暫くしてから王家の馬車がやってきた。
さて、わがままお姫様のお顔拝見って思って見ていたら、降りてきたのは王様と女王様だけだった。
王女様は乗っていなかったけど後から来るのかな。
教会にとにかく入りましょうという事で王様たちに続いて入った。
教会の中は公爵家の教会とは、また違う幻想的な雰囲気のまさに“精霊様の拠り所”的な場所だった。
そんな中、神の像の前で一人の少女が祈りを捧げていた。
僕達が入ってきたことも気づかない程、銀色の髪が床に触れているのも気にならないくらいに真剣に唯々、祈っていた。
敬虔な信者なのだろうかと考えたが、同時に少女から目が離せない自分に気づいてしまった。
「ミネルヴァ、そろそろ精魂式を行う時間だ」王様が少女に向って言うと
「はい、お父様」と言って振り返った顔は、妖精のようにかわいい少女だった。
じっと見ていたせいか、すぐにこちらに気付いてにっこり笑って、手を小さく振って精魂の間に入っていった。
誰がわがまま姫だ、妖精じゃないか。
なんで手を振った?
誰ににっこり笑った?
僕のこと知ってるのか?
王女が精魂の間に入ってから頭の中が疑問符だらけになった。
暫くして、王様たちが出てきて父様と話をしている間に王女様が近づいてきた。
「初めまして、私は、ミネルヴァ・メディカ・ディー・コンテンティス。今夜はエスコートお願いしますね。アムシャ・ジユニ・フラウミルヒさま」と満面の笑みで挨拶をしてきた。
ドキ!!っとした。
王女様は笑顔で人を殺せるかもと思ったが、こちらも挨拶しないわけにはいかないので、
「初めまして、僕にそんな大役が務まるかどうかわかりませんが、こちらこそよろしくお願いします。ミネルヴァ姫様」平静を装って軽く挨拶をして精魂の間に入った。
精魂式はまずハルワタートから行うことになった。
ハルとは事前に打ち合わせをして魔力のセーブ、魔法属性も雷と精霊魔法にすることにしていた為、すんなり終わった。
さすがに雷属性は上級魔法なのでお父様もお母様も喜んでいた。
精霊魔法は当然、星の精霊“ティシュトリヤ”兄様や姉様の時より姿がハッキリ見えることに驚いてはいたけど上級魔法の2属性はかなりレアだ。
続いて、僕、アムシャ・ジユニ・フラウミルヒの順番なのだが大神官様が疲れたようなので、しばらく休憩になった。
ちなみに僕の魔法属性の予定は基本属性の水、風、光、聖の四属性ってことにしようと思っている。
休憩も終わり精魂式を始めるとなったが大神官様は調子が悪いという事で、急遽、神官様4名で洗礼式を行ってくれる事となった。
僕を中央にして四角く神官様が取り囲む形で精魂式を行ったのだけど、急に魔法陣が浮かび上がり降臨魔法か何かで創造神“エンキ”様を呼び出したというか勝手に出てきた。
『アムシャか久しいのう。精魂式の真っ最中だったか。…うむ、ここにおるアムシャ・ジユニ・フラウミルヒは我の加護持ちじゃ、そなた達とはレベルが違う。精魂の儀など必要ない。我が宣言する全属性魔法使いオールマイティじゃ』嬉しそうに言いたいことを言って無責任な創造神“エンキ”様は消えた。
後に残された、みんなは、いやハル以外は大騒ぎになり礼拝堂に居た王様達も慌てて入ってきた。
「エンキ様………。なぜに今出てくるんです?計画が水の泡じゃないですか」
どこかで聞いているであろうエンキ様に小さな声で文句を言うが返事はない。
後で解ったことだが僕を中央にすることで魔力の媒体としたため、エンキ様は降臨魔法と同じ作用になり降臨できたと言ったが、僕はただ出てきたかっただけだと思っている。
結局、精魂式での僕の魔法属性はオールマイティ、創造神“エンキ”様の加護持ちということで何故か“神の子”と呼ばれるようになった。
また、王様と宰相様の悩みが増えたことは言うまでもない。
“強力過ぎる力は恐れられる……。”
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