夜がくる

榑樹那津

夜がくる

家に帰りわたしは一日の疲れを流すように勢いの無いシャワーを浴びる。

火照ったからだに残った雫を拭き、わたしは戸棚から酒瓶を取り出す。

黒くまんまるとした瓶は光が当たらない月のよう。

ロックグラスいっぱいに氷を敷きつめ、グラスの汗を拭く。

そして瓶の栓を抜き、黄金色の酒を注ぐ。

すこし氷を指で押し、冷えた酒を口に近づける。

その鼻を突くアルコールとほのかな果実の香り。

口にふくんだ瞬間に広がるビターチョコレートのような深い甘みがわたしを包む。

まるで窓から見える宵の空のよう。

わたしはこのひと口を飲んだ瞬間に感じるのだ。

夜がくると。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

夜がくる 榑樹那津 @NatukiSeiiti

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る