第18話 答えは――。
「国の将来を担うはずの人間だったからな。いくら一度も見た事のない特殊な魔法だったとは言え、本来なすべきだった事まで疎かにしてしまうのはいただけない」
つまり、宰相たちは「魔法にかかってしまった事は目をつむれても、女にうつつを抜かしてやるべき事をしなかった」という事に怒ったというワケだ。
――それは……そうなっても仕方ないかも。
いくら『魅了』にかかった状態だったとは言え、勉強を優先させる事は出来たはずだ。
――そうしなかったのは彼らだったワケで……。
もちろん。実際にかかったワケではないし、彼らにも言い分があるとは思う。それでも、そういった決定を下したという事は……納得のいくものではなかったという事だ。
「ところで、あの魔法はどうやったのかな?」
一通り話は終わったと言わんばかりに王子は私に顔を近づけた。
――近い。
「どうもありませんよ。ただ、反対属性に位置する『火』をあの水に当ててすぐに空の遥か彼方に放り投げただけです。あんなところで大爆発をされても困りますから」
「ああ。そういえばすぐに騎士が駆け付けていたな。あれは……」
「水と火が接触して爆発を起こした音を聞いて来たのでしょう。私たちは聖女があらかじめ仕掛けていた一定の範囲内にいる人にしか音が聞こえないなっていた魔法のせいで聞こえませんでしたが」
「……なるほど。やっぱり魔法が仕掛けられていたんだ」
王子は私の説明を聞いて納得した様に頷く。
――まぁ『空』って、王子が思っているよりも遥かかなたなんだけど。
それに、この方法は「荒業」に分類されるのであまり大きな声で言える話でもない。
「じゃあ後もう一つ」
「なんでしょう」
「今回の一件。一通り終わりが見えて来たんだけど……その、僕との婚約は……」
「……」
――そういえば、そんな話だったっけ。
なんて思ったけど、決して忘れていたワケじゃない。でも、ここですぐに結論を出す様な話でもない……気がする。
「え……と。その、ほ。保留と言う事は……可能でしょうか」
そう言ってうつむくと、王子はどこか満足した様子で「じゃあ卒業までな」と言って笑った。
「え」
――そんな簡単で……いいの?
もちろん冗談のつもりではなかったけれど、まさか王子の方から提案してくれるとは思ってもいない。
「当然。ちゃんと惚れてもらわないとな」
「え、惚れるって……」
「俺はソフィに惚れているが、こちら側から持ち掛けて『保留』という答えなら、脈なしってワケじゃないのだろう?」
「そ、それは……」
――というか! さらっと「惚れている」って!
私の頭の中はパニック状態だったけど「俺はあいつらとは違うからな。やるべき事はやって、ちゃんと卒業してソフィも惚れさせるからな。覚悟しろよ」なんていたずらっぽく笑うから……。
「――期待せずに待っています」
思わず反発してしまう。
「はは! 楽しみにしていろよ!」
「ふふ」
でも、私が自分でよく分かっている。
私の心は既に王子に向かっているという事を。そして、今まで以上に騒がしいけど楽しい学校生活が始まるという予感に心が躍っているという事を――。
とんでも魔力を隠していたのに、なぜか王子に目をつけられました。 黒い猫 @kuroineko
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