第17話 最後の情け


 ――水魔法……ね。


 先ほどと違い、私は冷静だった。多分、さっきは「どんな魔法か分からない」という「未知」に怯えていたからだと思うけど、今は違う。


 ――得意魔法で圧倒的な実力差を見せつけたいのだろうけど。


「甘い」


 私はため息交じりに小さく呟き、その水の塊を……消し飛ばした。


「え……え?」


 ミキアは「何が起きたのか理解出来ない」といった様子で目を白黒とさせている。


「何事だ!」

「ラファエル様!」

「魔法を使ったのはお前だな! 来い!」


 目の前で起きた事が分からず固まっていた彼女だったけど、騒ぎを聞きつけ駆け付けた騎士たちに連れていかれそうになると、途端に「離して! 私は聖女よ!」と言って暴れだした。


「……そいつの口を塞げ。そいつの魔法は『ある言葉』をきっかけとして発動する」

「!」


 王子の言葉を聞いたミキアの顔がサッと青ざめていたから、多分。王子の言っている事は事実なのだろう。


「はっ!」


 そして、王子からの指示で迅速にさるぐつわをされたミキアはそのまま連れていかれてしまい。一連の騒動は……まぁ、思っていたよりもあっけなく幕を下ろしたのだった――。


◆   ◆   ◆   ◆   ◆


「まぁ『あっけなく』終わらせることが出来たのは、あの女が自分の持つ力を利用する頭が足りなかったという話だけどな」

「……」


 ――それって……。


 要するに「残念な頭だった」と言いたいのだろう。


「そもそも彼女自身が自分の性格を自分自身で理解していなかったというのも問題だな」


 実は彼女は元々別の国の出身だったのだが、この国の貴族に自身の『魅了』の魔法を使って取り入り、自分がその貴族の娘になった。


 ――そもそも、彼女がどこの国の出身なのかすら謎らしいし。


 下手をすると年齢すら謎との事。今まで彼女はそうして「誰かに取り入って生きてきた」という事だけは分かった。


 ――まぁ、私も人の事を言えないけど。


 そして、魔法学校の入学も『聖女』の判定も全て各関係者に取り入ってでっちあげたモノだった様だ。


「元々男性に取り入るのが上手い事も相まってミカエルたちはまんまとその毒牙の餌食になってしまったようだな」

「……そうですね」


 今回の一件で、関係者は全員治療の後は職を失い、元々王子と一緒にいた宰相の息子たちは一から勉強をし直す事が決まっているとの事。


 ――でも、本来就くはずだった役職には就けない上に魔法学校にいる間は良いけど、卒業したら即廃嫡になるみたいだし。


 つまり「学生の間は面倒を見るけど、卒業した後は自分で何とかしろ」という事なのだろう。


 ――これが最後の恩情というヤツなのかもね。


 多分。親としての最後の情けと言うヤツなのかも知れないし、自分たちに対する戒めなのかも知れない。


 ――自分の息子なのに、ちゃんと見ていられなかったって言うね。


 実際のところはどうなのかは知らないけれど、何となくそう思った。

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