最終話
両国の和平の証としてサミュエルとヴィヴィアンの婚姻が結ばれることになった。
「ヴィヴィアン、君を幸せにする。どうか結婚してくれないか」
「もちろんです、サミュエル様」
ゆくゆくはベゼル帝国で盛大な結婚式をあげる予定でいた。
もう少しグログラーム王国が落ち着けばサミュエルと共に二人で過ごした城に移り住む予定だ。
サミュエルは自分の仕事が終わると必ずヴィヴィアンの元に会いに来ていた。
キーンとアーロはサミュエルがいつもヴィヴィアンに会いに行きたいと言って仕事をサボると文句を言っていたことを思い出す。
昼間は互いにやることをやって、夜に二人でゆっくり会うことを提案すると渋々ではあるが納得してくれた。
今では夜にまったりと紅茶を飲みながら、サミュエルと話をすのをとても楽しみにしていた。
「サミュエル様、今日もお疲れさまです」
「ヴィヴィアン、ずっと会いたいと思っていた」
そう言ってサミュエルはヴィヴィアンを思いきり抱きしめている。
「あの、サミュエル様……昨日も会いましたけど。それとロキシーは今日は連れていないのですか?」
「ロキシーはヴィヴィアンに近いからだめだ」
ベゼル帝国の神獣達はヴィヴィアンが大好きだった。
よくグログラーム王国に遊びに来てくれるので、いつもモフモフしている。
その理由はヴィヴィアンから漏れ出る力が心地いいかららしい。
ついにはロキシーにまで嫉妬をしているサミュエルには驚いてしまう。
しかしそんなサミュエルの姿を見て驚愕しているのが、キーンとアーロだ。
「皇帝陛下をここまで骨抜きにするなど……くっ!」
「ヴィヴィアンちゃん……すごすぎだよ」
キーンは何故か少しだけ悔しそうで、アーロは笑いながらそう言っていた。
ヴィヴィアンのことをあれだけ邪険にしていたキーンだったが、記憶を取り戻した後はヴィヴィアンに対してサミュエルと同じように接してくれている。
アーロはそのままの態度のまま変わらないので、よくキーンに怒られている。
サミュエルが愛しているヴィヴィアンのことは大切にするというスタンスだが嫉妬が垣間見える。
ヴィヴィアンは普通にサミュエルに接しているだけだが、どうやらこんなに人を好きになったのははじめてだと言うサミュエルの暴走は止まらない。
以前はボーッとして空虚だったサミュエルだが、最近では押されっぱなしである。
「やっとヴィヴィアンに触れられた。早く前のようにヴィヴィアンと共に住みたい」
「……えっと」
サミュエルはヴィヴィアンを無言で抱きしめては毎晩、何かを補給している。
彼の記憶が戻ったのと同時に今まで堰き止めていた何かが溢れ出るように、ヴィヴィアンへの溺愛が止まらない。
「ヴィヴィアン、愛している」
サミュエルの愛情表現は日に日に増していき、激しくなる一方だ。
そういうヴィヴィアンもサミュエルとジェラールへの愛情の差に気づいていた。
ジェラールの時は義務的だったが、サミュエルの時は心から彼を好いていると思えた。
今もサミュエルの温かい愛情に救われている。
彼は何をするにもヴィヴィアン優先なので、逆にこちらが止めるくらいだ。
いつも優しくヴィヴィアンを見守ってくれて、最後まで話を聞いてくれるところは冥王の時から変わっていない。
サミュエルは冥王になりかけてから時が止まっており、アンデッドになっていたキーンやアーロ、帝国民達も同じらしい。
記憶が戻ってからベゼル帝国や母親のアンについてたくさん教えてもらっていた。
サミュエルの年は二十四歳で圧倒的な魔法力を持って生まれて皇帝になったこと。
キーンとアーロは幼馴染で、気難しい性格と力が強すぎること、そしてあまりにも感情の動きが少なくて威圧感があったためベゼル帝国の女性達には恐れられていたらしい。
(……本当はとても優しい方なのに)
けれどヴィヴィアンほどの力を持つ女性も帝国にはおらず、それは母親であるアンをも凌駕していると語った。
確かに腹に穴が空いても自分で治療できたり、魔物化して力を取り込めたりと自分の力の強さに驚いてしまう。
今日、ヴィヴィアンはサミュエルに元死の森にある屋敷に連れてきてもらい懐かしさを感じていた。
たった数ヶ月だったけど、ここでヴィヴィアンの運命は大きく変わったのだ。
ヴィヴィアンはサミュエルは金色の月を眺めながら手を握り寄り添っていた。
二人とも手のひらで温かい体温を感じて愛おしさがこみあげてくる。
二人は目を合わせてにこやかに微笑んだ。
この幸せがずっとずっと続きますように……そんな願いを込めてサミュエルの名を呼んだ。
ゆっくりと顔が近づいていき、そっと唇を合わせた。
サミュエルの頬が真っ赤になっているのを見たヴィヴィアンは満面の笑みを浮かべながら彼に抱きついたのだった。
「愛してます。サミュエル様」
「ありがとう、愛している。ヴィヴィアン」
END
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