第53話

グログラーム国王は地面に頭を擦り付けるように謝罪していた。

サミュエルが呪いをかけられた後の話をするように促したことで全容が明らかになる。

先代国王はグログラーム国王の前でサミュエルに呪いをかけた代償でその場で体中の水分が抜けていくなか、国王にサミュエルをすぐに帝国に帰せと言った後に「この鍵を奴に渡すな。グログラーム王国に栄光を」と言い残し灰になって消えてしまったそうだ。


グログラーム国王は先代国王の言いつけを守り、髪が真っ黒になったサミュエルと黒猫にまで退化したロキシーを国境の森に投げ捨てたそうだ。

その瞬間に今まで明るかった森が真っ暗な闇に包まれて、サミュエルがフラフラと森の奥に歩いていく姿が見えたそうだ。


アンには嘘をついてサミュエルたちを助けたければ自分の病を治すように脅した。

そしてアンは国王の病を治したものの、先代国王がいなくなり混乱している隙をついて城を抜け出して、そのまま行方知らずとなる。

貴重な力を持つアンを逃してはならないと森を捜査しようとするものの、唯一アンのことを知る騎士がアンデッドに襲われて、黒いヘドロに飲み込まれた瞬間……彼らもアンデッドになってしまうことを知った。

結局、アンを見つけることはできなかった。


グログラーム国王にはアンデッドたちが言っていた『カエセ……カエセ』という台詞が鍵のことを指していたのだとわかっていたそうだ。

そこからグログラーム国王はアンデッドの恐怖に怯えながら過ごすことなる。

だからアンの力を引き継ぐヴィヴィアンが見つかった時には歓喜したそうだ。

それもアンデッドを追い払う力を持っている。

自分の手元に置こうと必死だった。


サミュエルとヴィヴィアンは黙って彼の話を聞いていた。

しかしサミュエルの長年の恨みは計り知れないものだろう。

記憶を失い、操られるまま帝国民を自分の魔法でアンデッドに変えて苦しめていたことにサミュエルは責任を感じていることもヴィヴィアンは知っていた。



「……サミュエル様のせいではありませんから」



ヴィヴィアンはサミュエルを励ますように手を握った。



「だが、俺が不甲斐ないばかりに皆を苦しめたことに変わりはない」



しかしそんなサミュエルの気持ちとは裏腹にベゼル帝国の帝国民達は事情を知ったとしても誰一人としてサミュエルを責めることはなかった。


そしてスタンレー公爵は爵位を剥奪されて、ラームシルド公爵を毒殺しようとした罪と、ヴィヴィアンを殺そうと加担した罪で公開の場で打首。

ベルナデットはあまりの恐怖とスタンレー公爵家がなくなったことで現実を受け入れられずに、精神が壊れてしまったそうだ。

牢の中で一生を過ごす予定だったが、壁に頭を打ち続けて自害してしまったらしい。


それとは逆にジェラールは「本当はヴィヴィアンを愛していた」「二人で国を守っていこう」と言って最後まで己の地位に縋り付いていた。

よくも殺そうとした相手にそんなことを言えるものだと、あまりにも頭にきたヴィヴィアンは、気持ちを完全に断ち切るために彼を思い切りぶん殴った。


宙を舞うジェラールの体。

「僕は諦めないぞ」と泣き喚く彼に背を向けてヴィヴィアンは歩き出す。

願わくば一生顔を合わせたくないということで、ジェラールも父親と同じ道を辿るだろう。


ヴィヴィアンは二人に復讐を果たしたことで晴々とした気分だった。

今まで受けた仕打ちを考えればまだまだ足りないくらいだが、綺麗さっぱりと忘れて前に進もうと決意する。


それにヴィヴィアンはサミュエルと共に生きていくことを選んだ。

もう二度と彼らに苦しめられることもないはずだ。


グログラーム王国はラームシルド公爵とマイロンがまとめていくことになった。

国民達にはジェラール達がヴィヴィアンやマイロンにしたこと。

そして先代グログラーム国王がベゼル帝国にした仕打ちを説明すると納得してくれたようだ。


グログラーム王国の国民にヴィヴィアンの支持率が高かったこともあり、あっさりと受け入れたことも大きいだろう。

ヴィヴィアンが苦労して積み上げてきたことが報われた瞬間だった。


サミュエルもベゼル帝国を立て直すために国に戻り、ヴィヴィアンはマイロンを支えつつも新しいグログラーム王国を作っていった。


数ヶ月後には死の森だった場所には、ベゼル帝国へと続く一本の道ができた。


グログラーム王国とベゼル帝国の付き合いが活発になり、二十年を時を経て二国は繋がった。

ヴィヴィアン以外の魔法に触れたのが初めてだったグログラーム王国の国民達は驚きつつも帝国民を受け入れて、グログラーム王国の国民はベゼル帝国に向かい、復興の手伝いを行なっている。

そして魔法を使わずとも生活する知恵を教えることで互いに支え合っていくことになった。

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