花一葉
谷井小鈴
花占い
私、一人で生きていきたいのに、その自信はなくて、と彼女は言った。人の話を聞くのはあまり、得意じゃない。だけど、彼女の話なら、まあ、いいのかなと思う。なんとなく隣にいて、なんとなく話して私は彼女に、彼女は私に言いたいことがあるから。
私は重いから、好きになったらだめなんだ。彼には離れていってほしくない。
風が青葉を揺らした。来年、もう一度青葉が茂るころには、もう一緒にいないかもしれない。彼は、私のことをどう思っているのだろうか。
私は彼が好きではない。好きではない。と言い聞かせて、決して好きになってはいけないと言い聞かせて。
私のことは好き、でしたか、
花びらが一枚、はらりと、落ちた。
そばにいてくれるところが好きでした。それだけで、それだけではないです。振り向いた顔、眠そうな日も、足音、髪型、新しいパーカーに、列車の窓から光が差し込んでまぶしそうにするところ、いじわるなところ、声のトーン、気付いていないふりをして、本当は全部わかっていそうなところ、私は、きっと、恋をしていました。
毎日そばにいるから分からないことと分かること。体調と機嫌。分からないことの方がたくさんで、髪を切ったのに気づかなくって怒られましたね。
恋とは何でしょうか、彼への気持ちは何でしょうか。
でもこれを、恋と言っては絶対にいけないのです。行ってしまったらあと少しそばにはいられません。
一人で話し続けるところ、口を出させてくれないところ。自分勝手なところ、謝ってほしくないのにすぐに謝るところ。人の気持ちを考えるのが足りないと思う。勝手にか壁を作るくせにすぐに人と仲良くなれるところ。ちょっとしたあなたが気付いていない失言。それなのにどんなに好かれているか、一挙一動がどんなに私を喜ばせ傷つけるか分かっていないところ。大嫌いです。
また何枚か、花びらが、落ちた。
きっと私はあなたが好きです。一目見るだけでマイナスの部分が吹き飛んでしまいます。一回見たら話したくなって抱きしめたくなります。
愛しています、なんていうととても重いですね。
残りはあと、一枚。
だから。一人で生きていくために、ほんとは、そばにいてほしかった。
ばいばい、また、いつか。
花一葉 谷井小鈴 @kosuzu_tanii
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