第12話 新しき王は激昂する






 カイゼリン王国国王ことユリウスは、作戦会議室で伝令兵からの報告を待っていた。


 王都近郊に帝国軍およそ1000が迫ってきたためである。


 本来ならば前線に立って兵士たちの士気高揚に努めるべきユリウスだが、今回は相手が精強な帝国軍ということもあり、万が一のことがあってはならないので出陣は見送られた。


 しかし、何もせずただ城で待っているだけというのがユリウスには辛かったらしい。



「くっ、報告はまだなのか!!」


「落ち着いてくださいませ、ユリウス陛下。帝国軍は僅か1000。対する王国の数は10万です。まず勝利は確実でしょう」



 ユリウスを宥めるのは王国の宰相、ヴィレヴィアだった。


 彼の言葉にユリウスは一旦の落ち着きを取り戻すが、すぐにその表情が強張る。


 帝国軍は雑兵すら一騎当千の軍隊だ。


 いくら千人という少数でも、もしかしたら甚大な被害を被るかも知れない。


 そう考えると、落ち着けるはずも無かった。



「……いや、まだ帝国軍の数が減っているだけ良しとするか」



 本来ならば王国軍の倍、20万の帝国軍が相手だったのだ。


 相手側に不運が重なったらしく、竜巻でとてつもない被害を受けたらしい。


 全体数が僅か数日で半分以下になっていた。



「しかし、何故帝国は撤退しなかったんだ? 一度国に戻って態勢を整えるのが普通だろう?」


「何かしらの理由があったのでしょうな。撤退できない理由が」



 その時、伝令兵が会議室に入ってくる。



「報告です!! 王都に進撃してきた帝国軍1000を殲滅しました!!」


「そ、そうか!! よくやった!!」


「それが……」



 伝令兵が告げた内容は衝撃的なものだった。


 1000いた帝国兵は王国軍の弓兵による一斉射撃で半分まで数を減らしたが……。



「屍兵となった帝国軍500により、王国軍は重軽傷者を合わせて2万です」


「なっ……」


「それと、帝国軍の陣頭で指揮を取っていたアシュリー皇女を逃がしてしまいました。幸い、毒塗りの矢を弓兵が当てたため、そう遠くへは行っていないかと。現在、王国軍が総出で捜索しております」


「そ、そうか。……王国の威信をかけて、必ずアシュリー皇女を捕らえろ」


「はっ!!」



 僅か500の敵兵に2万の兵が負傷した。


 ユリウスは身震いする。


 前王、つまりはユリウスの父であるルドルフは、そんな化け物共を相手に戦っていたのかと。



(僕に父上を越えることはできるのだろうか)



 ユリウスが一人、天国にいる父に思いを馳せていると。

 不意に会議室へ王国騎士団長ドナパルトが入ってきた。



「ユリウス陛下、不味いことになりました」


「む、フランク卿か。どうした?」


「先程、国境の偵察に向かわせていた部下たちから報告がありまして」



 ユリウスはドナパルトから衝撃的な内容を聞かされる。



「国境線に沿って地割れが生じているだと!?」


「はい。海も津波被害が頻発しており、陸路も使えない。王国は完全に孤立しました」


「……いや……まさか……そんな……」



 国境線に沿って地割れが生じる確率はどれ程のものだろうか。


 頻発する自然災害と言い、もう偶然と言い張ることは難しいことをユリウスは察する。



「まさか、これがあのエドワードの仕業だとでも言うのか?」


「ユリウス陛下。僭越ながら、申し上げてもよろしいでしょうか」


「……なんだ?」



 ドナパルトが真剣な面持ちで言う。



「ただの勘ですが、これらの相次ぐ災害はエドワード王子にあると俺は思います」


「……そんなことが、あるわけないだろう」


「では、陛下は偶然で地割れや竜巻などの災害が頻発していると?」


「ああ。あいつは魔力値0の無能。こんなことが、あいつにできるわけがない!!」


「俺は、これが伝承にある災いだと思うのですがね」


「フランク卿!! 貴殿はこの災いの原因が私にあると言いたいのか!!」



 激昂して腰に下げた剣を抜くユリウス。


 ドナパルトは動じない。否、正確には心の中で物凄く震えているが、それを欠片も悟らせない。


 その時だった。



「陛下!! 大変です!!」



 伝令兵が慌てた様子で会議室へ駆け込んできた。



「……なんだ?」


「そ、それが、災害から逃れてきた避難民が保護を求めて王城前に集まっています!!」


「な、なに?」



 ユリウスは会議室の窓から顔を出して外の様子を窺う。


 そこには無数の民が助けを求めて呻いていた。



「ユリウス王!! どうか、どうかお助けを!!」


「せめて子供にだけでも食料を!!」


「もう畑がめちゃくちゃで、村も地割れに巻き込まれちまったんです!!」


「おい、推すなよ!!」


「ふざけんな!! こっちは何日も食い物を食べてないんだぞ!!」



 救いを求める者、食料を求めて争う者……。


 それは様々だったが、たしかにカイゼリン王国に住まう民達であった。



「くっ、フランク卿。先程の件は不問とする。王城の食料庫を開けて民衆に配給しろ。手の空いてる兵を動員して仮設住宅の建築を急がせろ」


「……はっ」



 ユリウスの命令にドナパルトが頷く。


 王国の破滅の足音は静かに、されど一歩一歩確実に近づいてくるのであった。






――――――――――――――――――――――

あとがき


 一方その頃。


エ「お腹すいたなー。あ、この木の実って食べれるかな?」


皇「ちょ、き、貴様、何か分からんものを食べるな!! ぺっしろ、ぺっ!!」


ア「ん? あの木の実ってたしか、ドラゴンも殺す猛毒を持ってるはずじゃ……」


神霊ズ『『『えへへ(良い笑顔)』』』


 こっそり木の実から毒を抜いてやり切った表情を見せる神霊ズであった。



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