第11話 王国副騎士団長は異変に気付く
「こ、これは……ッ!!」
王国騎士団副団長ことアリス・レイベルは、王国の国境を越えようとして言葉を失った。
騎士団長ドナパルトから受けた命令を内密に遂行するべく、こっそりイナイ共和国へ向かおうとした矢先の出来事である。
「アリス様、これは、なんでしょうか?」
「……見ての通り、地割れね。いえ、地割れって言っていいのかしら。あまりにも大きすぎる」
国境付近には巨大な地割れがあった。
ここ最近、地震や竜巻などの自然災害が発生していることをアリスは知っている。
故にアリスは、災害があったであろうことに驚かなかった。
驚いたのはその規模である。
「これ、どこまで続いてるのかしら」
迂回して通れる道を探そうと、地割れに沿って馬を走らせること三日。
地割れはどこまでも続いており、終わりが無いように思えた。
「まずいわね」
「そうですか? たしかに異常事態ですが、あの帝国からの侵略も防いでくれますし、ラッキーなのでは?」
「今が平時ならね」
アリスは思考を巡らせる。
(よりによって自然災害が多発している今、王国は陸の孤島となってしまった。他国との交易に問題が生じるのは勿論、有事の際に国の重鎮を他国へ逃がすこともできなくなった。敵の侵入を防げはするけども、こちらの逃げ場も無いなんて)
カイゼリン王国の食料自給率は、そこそこ高い方ではある。
しかし、最近の自然災害による生産量の低下が原因で来季の国産食料品は値が高騰してしまうだろう。
そうなった場合、交易による他国からの食料品の輸入が重要になってくる。
ところが、その重要な交易は巨大な地割れのせいで不可能となってしまったのだ。
近いうちに起こるであろう問題を想像すると、アリスはあまり良い気分ではなくなった。
頭を振って思考を切り替える。
(いえ、今は任務に集中しましょう。私の役目はあくまでもエドワード王子を探すこと。陸路を使えないなら、海路を使って他国に向かうべきね)
そこまで考えて、アリスは気付く。
陸が駄目なら海を使うまで!! と考えたは良いものの、今はその海も問題を抱えていることに。
「そうだったわ。今、海が荒れに荒れてて大半の船が沈んでしまったのを忘れてた」
現在、王国の湾岸部は荒れに荒れている。
大嵐が頻発しており、大型の船は次々と沈没していた。
小型の船ではそもそも荒くなった波に耐えられず壊れてしまう。
「これは本格的にまずいわね。私たち、完全に国から出られなくなってるじゃない」
国から追放されたエドワード王子を捜索するとか、それ以前の問題だった。
自分たちが国から出られない以上、捜索もクソも無い。
アリスは即座にこの問題を解決するべく行動を開始した。
「誰か、この中に土魔法が得意な者は?」
「あ、はい。一応、土魔法なら自分が使えます」
手を挙げたのは若手の少年騎士だった。
若くして王国騎士団の入隊試験を首席で合格し、見事入隊を果たした彼の名はオルン。
剣技と魔法を組み合わせた戦い方をする、将来有望な騎士だった。
「オルン、ここから地割れの向こう側まで土魔法で繋げることは可能か?」
「や、やってみます」
オルンがアリスの前に出て魔法を行使する。
めりめりと土が隆起して、ゆっくりと少しずつ地割れの向こう側へと向かって伸びて行くが……。
ふと、その動きは止まってしまった。
「ん? あ、あれ? おかしいな」
「どうした? 魔力が切れたのか?」
「い、いえ!! 魔力はまだ余裕があるんですけど、土が受け付けないというか、反発してくるみたいで上手く操れなくて」
「なんだと?」
土魔法で橋を作る作戦は失敗だった。
その原因は他でもない、この地割れを作った土の神霊ソイにある。
神霊やその下位種に相当する精霊などの起こした奇跡は、基本的に同系統の奇跡でしか対抗することができないのだ。
通常の魔法でも一応は対抗することが出来るものの、それは魔法の使い手本人の技量による。
つまり、土の神霊が作った地割れをどうにかしたければ土の精霊を使役し、精霊術を行使する必要があるということ。
もっとも、精霊は神霊の下位種。
神霊の起こした奇跡を精霊が上書きしようものなら、普通にブチギレる。
きっと更なる災害が起こったことだろう。
そんなことを知る由もないアリスたちは、ただひたすら首を傾げるだけだった。
「これではどうしようもありませんね。一度王都に帰還し、団長に指示を仰ぎます」
「しかし、この地割れがどこまで続いているのか調査した方が良いのでは?」
「そうね。だから部隊を半分に分けるわ。私はこのまま国境に沿って地割れがどこかで途切れていないか確認する。馬の速さに自信がある者は王都へ言って指示を仰ぎなさい」
「「「はっ!!」」」
王都へ帰還する部下が二人、残りはアリスと共に国境に沿って馬を駆る。
アリスは独り言を呟いた。
「本当に、この国はどうなってしまったのかしら」
カイゼリン王国には異変が起こっている。
誰もが「いつかは収まる」と思っている異常な頻度の自然災害。
果たしてその「いつか」がいつ来るのか、一介の騎士であるアリスには分からなかった。
――――――――――――――――――――――
あとがき
一方その頃。
エ「あの、本当に大丈夫ですか?」
皇「う、うむ、も、ももももも問題ない!!」
神霊ズ『『『……ギロリ(鋭い目でアシュリーを睨む)』』』
見えない何かからの視線に、顔が引き攣る皇女だった。
「面白い!!」「皇女ビビりすぎ」「続きが気になる!!」と思った方は感想、ブックマーク、★評価、レビューをよろしくお願いします。
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