第4話 新しき王は更なる怒りを買う
神星教の大司教アインザックの名の下、ルドルフの葬儀とユリウスの戴冠式が行われた。
招かれる領主や貴族は史上最も偉大な王の死を嘆き悲しみ、同時にその息子であるユリウスが王となったことを祝福した。
「ふぅ。これで、今日から僕が王になったのか」
「お疲れ様でした、ユリウス様。お茶をどうぞ」
「おお、ありがとう。シンシアは気が利くね」
前国王ルドルフが使っていた部屋で、ユリウスとシンシアは寛いでいた。
本格的に王として政務に参加するのは明日からになるだろう。
今はただ、愛しい人との時間を大切に過ごしたいと願うユリウスだった。
しかし、ユリウスの脳裏によぎるのは前国王ルドルフの最後の言葉だ。
『許しを乞え、エドワードに!! 神霊の災いが猛威を振るう前に!! 己の浅はかさを悔やみ、頭を垂れ、懺悔するのだ!! さすればまだ希望が――』
神霊、災い……。
アインザックが細かに説明していたが、いまいちピンと来ない。
何より。
「ふん、誰があのような者に頭など下げるか」
エドワードに許しを乞う? 冗談じゃない!!
一国の王となった今、やすやすと頭を垂れるわけにはいかない。ましてや魔力値0の忌み子に下げる頭などユリウスは持っていなかった。
しかし、ルドルフのその言葉が喉奥に引っかかった小骨のように耳に残っている。
自分は何か間違ったことをしてしまったのではないか。
ふと疑問を抱くが、すぐ側で自らに優しく微笑みかけてくる最愛の少女を見て、首を横に振った。
(後悔などあるものか。僕は王として、この国を、シンシアを幸せにするんだ)
改めて決意を固めるユリウス。
しかし、やはり不安は心のどこかに残っており、中々拭えるものではなかった。
その最たる理由として、各地の神官たちが一斉に総本山であるラドガニア教国へ帰ってしまったことがある。
ユリウスの内に秘めた不安を感じ取ったのか、シンシアは養父の言葉を思い出す。
「お養父様が仰っていたことは、本当なのでしょうか」
「シンシア、君まで何を言う。あんなものは所詮、ただの伝説だ。ただの作り話だよ。君は何も不安に思わなくていい。僕を信じて付いてきてくれ」
「……ふふっ、はい。私はユリウス樣を信じております」
二人がお互いを射通しそうに見つめ合い、甘ったるい空気が辺りに満ちる。
「シンシア。今日もしていいかい?」
「ユリウス様……。お腹の子に障ってはなりませんので。ゆっくりですよ?」
「分かっているとも」
そう言ってユリウスがズボンを下ろし、シンシアを押し倒す。
その時だった。
『ユリウス陛下!! ユリウス陛下!! 大変です!!』
「ちっ、良いところだったのに!!」
兵士が慌てた様子でユリウスを呼びに来た。
政務は明日からだと言うのに……。
いや、もしかするとそれを差し引いても余りある大事なのかも知れない。
ユリウスは兵士へ部屋に入るよう命令する。
「失礼します!! ユリウス陛下、た、大変です!!」
「どうした? 大した内容で無かったらお前の首を刎ねるぞ」
「み、港、港が……」
「なんだ、ハッキリ言え」
「そ、その、クーレ軍港が、津波により壊滅的な被害を受けました!!」
クーレ軍港。
カイゼリン王国の半分の海軍戦力が集中している、王国最大の軍港だ。
人口は30000人を超え、停泊している軍船の数はおよそ200隻を超えている。
また、バリスタ等の兵器を開発する港街が近くにあるため、軍事的な意味合いでは王都すらも上回る重要性の高い場所だ。
自然災害によって壊滅的な打撃を受けた場合、被害は計り知れない。
一応、ここ数百年の間に地震や津波などの被害が無かった場所を調査し、前王ルドルフが作った軍港だったのだが。
大規模な地震が起こったわけでもなく、急に巨大な波が押し寄せて軍港を流してしまったらしい。
しかし、ユリウスの反応は。
「なんだ、そんなことか」
「え? へ、陛下?」
あまり驚いている様子は無かった。
「軍を派遣して生存者の救助に当たらせろ。それから財務大臣と軍務大臣を呼んで来い」
「は、はっ!!」
兵士がユリウスの命令に従って、財務大臣と軍務大臣を呼びに行く。
程なくしてやって来た軍務大臣であるサーレイは、とても疲れている様子だった。
そのサーレイを、旧知の仲である財務大臣のダリスが心配そうにしている。
「陛下、お呼びでしょうか?」
「軍港の件で話がある」
「は、はあ? 私は国庫を管理するのが役目ですので、あまり軍事的な内容はお役に立てないと思うのですが……」
「クーレ軍港よりも大きな軍港を作る。財務大臣にはその費用を捻出して欲しい」
「「!?」」
ユリウスの思わぬ言葉にサーレイとダリスが目を剥いた。
軍港が津波によって壊滅的な被害を受けたという報告は、まだ二人の耳に入ったばかりだ。
ユリウスとて報告を聞いてから大した時間は経っていまい。
サーレイとダリスは、ユリウスの決断の早さに驚いた。
「し、しかし、クーレ軍港へ軍を派遣しては港の建造に必要な人員を確保できません」
「冒険者を雇うか、近くの村や街から労働力を集めろ」
「ですが、軍港は機密が集まる場所。関係者ではない者を使うのは危険だと具申致しまする」
「気にしなくていい。重要な区画は軍の兵士にやらせて、それ以外をやらせるんだ。これは僕が父上を上回る功績の第一歩だ。失敗は許さないぞ。これは王命だ」
「は、はい。そういうことでしたら……」
王命ならば逆らえない。
軍務大臣サーレイと財務大臣ダリスは協力して、クーレ軍港以上の軍港を造ることになった。
(父上、僕は貴方を上回る功績を残し、父上よりも偉大な王になります!! 父上のエドワードに謝れという言葉が間違いだと証明してみせます!!)
それはルドルフの最後の言葉を否定したいがための行動の早さだった。
災いの原因となるであろうエドワードは既に王国にはいない。
王国に待っているのは繁栄と平穏の二つのみ。
クーレ軍港のことは残念だったが、ユリウスはこれを自らが偉大な王となるための試練だと受け取るのであった。
……その行動が、人間よりも遥か上位の存在の更なる怒りを買うとは露知らずに。
『こいつ嫌い!! エドをいじめてたからずっと嫌いだけど、もっと嫌い!! せっかく津波で港を押し流したのに!!』
水の神霊アクアが怒る。
『新しい港も津波で流しちゃおう!!』
『でもでも、それだと面白くないよ!! 今度は地割れを起こして人間も一緒に生き埋めにしちゃおうよ!!』
『そうだね!! でも気を失わせないようにしなくちゃ!! 死ぬ寸前まで苦しめて苦しめて、命乞いしても苦しめて!! アンデッドにして死んでからも苦しめよう!!』
『それ素晴らしいわね!! 私が考えたことにしても良い?』
『ダメー!!』
後日。
国王ユリウスはクーレ軍港を上回る軍港を造ると発表した。
公共事業ということもあり、多くの者が志願するものの……。
その者たちに更なる災いが降りかかることを知る者は、いなかった。
――――――――――――――――――――――
あとがき
一方その頃。
エド「こっちかな? うん、多分こっちなら森を抜けられそう!!」
神霊ズ『『『エド、もう同じところを十二回も歩いてるよ!!』』』
森から出られないエドワードであった。
「面白い!!」「エドワードは方向音痴なのか」「災害は怖い」と思った方は、感想、ブックマーク、★評価、レビューをよろしくお願いします。
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