空気にしか見えない
尾八原ジュージ
空気にしか見えない
鈴木さんが苦手だ。でも彼女は僕のことを気に入ってるらしく、よく話しかけてきたり妙に顔を近づけてきたりする。口臭を我慢しながら愛想笑いしてたのがよくなかったのか、ある日の昼休み、教室で
「私の秘密、森くんにだけ教えたげる」
と囁きながら、意味深に出してきたのがラベルのない500mlのペットボトル。
「この中に妖精を飼ってるの。狂暴なコだったから閉じ込めてるんだ」
だって。
でも、どう見てもそのペットボトルは空だ。空気しか見えない。一人で妄想するのは勝手だけど共有されるとキツい――とは思いつつビシッと言えないのが僕の悪いところだ。僕は「へー」とか適当な返事をしながら何気なく、ほんとに何気なくペットボトルの蓋を捻ってみた。プシュッと音がした。
「あーーーーー!!!」
突然鈴木さんが大声を上げた。と思ったら「痛い痛い痛い」と叫びながら踊り狂うような動きで教室を飛び出していき、そのまま四階の渡り廊下から飛び降りた。
鈴木さんは死んで、僕の手元にはペットボトルが残された。でも結局妖精なんか見えないし、鈴木さんがなぜ飛んだのかもわからない。まして彼女の体に一円玉大の、でも形は人間のものに酷似した小さな歯型がたくさんついていたのは何だなんて訊かれても、すごく困る。僕に訊くな。
空気にしか見えない 尾八原ジュージ @zi-yon
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