第7話 警察

 神谷 莉緒がホームから突き落とされ死亡した事件で、警察は犯人を探していた。ここ2週間の調査結果は以下の通りだった。


 まず、三島だが、死亡した当日、朝までホテルで一緒にいたことは分かっていて、桜井の話しだと、神谷とはその頃、別れようとしていたらしい。動機は十分で、当日の会社に来たのが妙に遅く、ホテルから出た三島は駅で待ち合わせ、ホームで神谷を突き落とすことは十分に可能だった。ホテルで何をしていたのか分からないが、別れてくれなくて、殺意に変わったという可能性はある。


 なお、事件直後、神谷の親族がすぐに分からなかったので、朝まで一緒にホテルにいて、神谷の携帯に数多くのやり取りがあった三島に病院に来てもらい、死体の本人確認をしてもらった。事故でひどい状態だが見てもらいたいと言ったので、三島は見たくはないと言ったが、見てもらうこととなった。顔と胴体は切り離され、顔も一部潰れていたが、三島は、見た目から神谷に間違いないと答え、連絡先を伝えて解放された。


 次に、桜井は、三島と神谷が付き合っていることは知っていて、神谷を別れさせたいと考えていたと証言しているので動機は十分にある。死亡当日は歯医者を休んでいて、当日のアリバイはない。


 佐藤は、妊娠しているって証言した。三島の女関係はどこまで複雑なんだ。佐藤も、三島と神谷が付き合っていることは知っていて、結婚を迫ろうとしていたと言っている。だから、神谷は邪魔で、動機は十分だ。死亡当日は、いつも通りの出社だが、最寄りの駅が新宿にあり、通勤で新宿駅にいる時間がちょうど死亡時間に重なる。そこにいても、なんら不思議ではない。ただ、三島から遅れるとの連絡があり、いつもよりは遅く家を出たと言っているが本当かは不明だ。


 小島は、会社の中で三島を恨んでいたと同僚から聞いていて、その同僚からは、飲んでいる時に、三島の彼女をホームから突き落とし、三島に罪をなすりつけると嬉しそうに語っていたとの証言があった。また、その日は、自宅で5時からリモート勤務をしていたと証言している。PCのアクセスログからは5時に記録があるが、その後、メールなどはなく、PCを放置して外出することは可能なのでアリバイがあるとは言えない。


 一番、可能性が低いのが河野だが、神谷とはかなりLINEでのやり取りがあり、神谷とはケンカ状態になっていたので容疑者からは外せない。しかも、死亡時間には、部屋で寝ていたということなのでアリバイはない。


 でも、いずれも犯行は否定しており、誰が犯人なのかと警察側は頭を悩ませた。


 その後、一般の方から、駅に落ちていたという手紙が届けられた。目の前で人が死んだので怖くて警察に来れなかったということだったが、少し気持ちが落ち着いて、もしかしたら重要な手紙かも知れず、警察に届けたということだった。中身は、以下のものだった。


 将生、私は、あなたの子供を妊娠したの。将生は私を愛してくれているよね。できたんだから、結婚してくれるよね。信じているから。今度、話したい。一香より。


 この手紙の指紋を調べたところ、届け出た人の指紋を除くと、差出人の佐藤と神谷の2人だけだった。封は開けられているが、三島は手を触れていない。そこで、佐藤に確認したが、この手紙は認め、職場で三島の鞄に入れておいた、その時は封をしたという証言が出た。


 三島は読んでいないが、封は開けられていたので神谷は読んだはずだ。神谷は自分のことは知らないと思うと佐藤は言っていたので、神谷から見ると、この手紙から、三島が裏切り、誰か知らない人と子供を作り、結婚を迫られているということを知らされたのだろう。


 警察は、ホームに限らず駅周辺の監視カメラを確認したものの確実な物証を探すことができなかった。カメラには、どの容疑者も映っていなかった。そこで、神谷が、あまりのショックに足がふらつき、ホームから落ちた事故だと結論づけ、容疑者は、いずれもお咎めなしということで幕引きとなった。


 この件の主任刑事は、あまりに悪い後味に書類を机に叩きつけた。そんなはずがなく、一番怪しいのは妊娠した佐藤だと再度、上層部に訴えたが、上の決定ということで、どうしようもなかった。


 この結末で、容疑者だった人達は、いずれも普通の生活に戻った。将生は、勝手に莉緒が死んでくれて、別れられたのはラッキーだったと心の中で喜び、芽衣とできちゃった結婚をすることにした。


 一香の方が良かったけど、できちゃったら仕方がない。芽衣も、そこそこいい女なので、結婚してやろう。芽衣がワガママになったら、慰謝料払って離婚すればいいって。


 ただ、その後、将生の生活は大きく変わっていった。将生は、事故直後のぐちゃぐちゃの莉緒の顔がずっと忘れられず、夜な夜な、死んだはずの莉緒に怯える日が増えていった。また、芽衣との赤ちゃんが生まれた直後に赤ちゃんを抱いたら、その顔を見た途端、莉緒の顔と重なり、手から投げ捨ててしまった。その赤ちゃんは、頭蓋骨陥没と脳内出血で、すぐに息を引き取った。


 それは父親が手を回し、死産だったとして問題をもみ消したが、芽衣とは離婚することになった。もう、この頃になると、将生の人格は不安定になり、誰もが将生を避けるようになり、会社も通えなくなって辞職をした。


 将生は、人と会うと、常に相手の顔に莉緒の顔が浮かぶので、家に引きこもるようになり、1年後、自分の部屋で自殺をした。周りの人は、莉緒が将生を連れていったと噂していた。

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私の体はバラバラ 一宮 沙耶 @saya_love

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