第6話 河野 澪

 私は、河野 澪、将生とはアメリカで一緒の大学に通っていて、一緒に暮らしていた時もあった。将生は、女ぐせが悪かったけど、さっぱりしていて、私と一緒に飲みに行くと、その日は他の女性は頭から消え、私だけと付き合っていると思う性格だったので、気さくに付き合うのは悪くはなかったわ。


 日本人が少なく、寂しかった時に、将生の存在はありがたかった。よく深夜まで、授業の疑問点などをぶつけ合い、意見も交わしたし、その後、ワインを飲んで一緒に朝まで過ごした。また、アメリカ人からばかにされたと涙を流した時とかは、いつも慰めてくれた。


 日本人の女性の友達がいなかったので、時々だけど、クリスマスとかでみんなが連休を取っている時は、一緒に旅行に行ったり、夜景が見える素敵なレストランとかに連れて行ってくれた。その意味では、将生にはだいぶ助けられたと感謝している。


 その後、大学を一緒に卒業し、2年ぐらい前に日本に戻ってきて、コンサル会社に入社した。成果、成果と毎日のように要求されたので、足の引っ張り合いばかりで、社内は殺伐とした雰囲気だったけど、給料はよかった。そんなんだから、夜10時ぐらいになると飲みに出かけるのが日課だった。


 ある晩、10時すぎて、六本木のバーに入ったら、女性と2人で飲んでる将生を見かけた。久しぶりと声をかけると、一瞬、驚いた表情で私を見て、本当に久しぶりだね、元気だったと挨拶をしてきた。私は、女性の方にも挨拶をし、大学の頃、アメリカでいっしょに過ごしたと伝えた。彼女も軽く会釈をした。


 まあ、彼女との時間を邪魔しちゃ悪いから、挨拶ぐらいにして退散しようとしたら、彼女が、アメリカの頃に将生がどんなだったか聞きたいから、ご一緒しませんかと誘ってきた。デート中でしょ、悪いよというと、大丈夫です、将生も大丈夫だよねといい、強引に一緒のテーブルに座ることになった。


 アメリカの頃は、将生は苦労していて、同じように苦労していた私とよく一緒に勉強したとか伝えた。そして、休日には、近くの公園に行ったり、ボストン市街に出かけたりと楽しんだりしたとも言った。もちろん、一緒に寝たとか、品のないことは言わないわ。


 そうそう、ある日、彼が公園で池の脇を歩いていたら、滑って、池に落ちゃって、どろんこだから電車にも乗れずに、長距離、歩いて帰ったという思い出を話したら、彼女は、そんなドジな面もあるんだって将生の肩を叩いて笑っていた。


 彼女は、どこにでもいそうな女の子で、ずっと、くすくすとずっと笑っていた。あまり裏表のない、とは言っても取り柄もない人だなというのが印象ね。でも、将生と付き合って、幸せそうな表情をしていた。彼女は澪のこと気に入って、LINE交換しようと言ってきたので、断るのもなんだし、交換した。


 そして、3人でだいぶ飲んで12時ぐらいになるのでタクシーで帰ることにした。お二人は、どうも、ホテルに泊まるようだったけど、どうでもいいし、じゃあねと別れた。


 その後、LINEで彼女からたびたびメッセージがきて、やりとりをした。澪も返事ぐらいしないとと対応していたが、女性のねっとりとした悩みが多く、自分に自信がないとか、将生に嫌われたらどうしようとか、いつも、そんなこと気にしてもどうしょうもないのにというものばかりだった。


 日によっては、1日に20通もメッセージが飛んできた。なんか、見るのも嫌になったけど、友達から削除するまでの勇気はなく、どこかでまとめて返事をしていたの。本当に、いつも、自分には自信がないという内容ばかりで、こちらまで滅入ってしまうわ。


 でも、時々は、将生とこんなことがあって嬉しいとか、今日はどこに行ったとか、嬉しさに溢れた報告もあった。私には関係ないんだから、もう面倒だと思ったけど、良かったねとだけ返事をしておいた。本当に精神が不安定というか、躁鬱病じゃないかと思うくらい。


 もっと自信を持ちなさいと返していたけど、だんだん面倒となり、そんなんだった別れちゃいなさい、あなたがしっかりしないからよなどと、きつい言葉を送ることが多くなった。そして、私は、あなたの友達じゃないのよときつく返したら、その後、メッセージは来なくなった。もう少し、優しく接した方が良かったかしら。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る