第18話:レッツゴー体育祭③

「もうなんかいろいろ疲れた…」


 その後。


 俺たちは中庭にある憩いの広場と名のついた場所で休憩していた。


 ここは中庭なので、もちろん校舎に囲まれている。


 つまりここは全校生徒の注目を浴びる可能性があるわけであり。


 ここにくるのは陽キャかリア充だけであって。


 そんな場所に俺と美亜がいたらどうなるか。


 そんなの決まっている。


「(ねえねえ、あそこ見て)」

「(あの二人、いつも仲良さそうだよね)」

「(やっぱり付き合ってるのかな)」

「(あんな可愛い子が彼女って、アイツは幸せそうだよなー)」

「(腹にダイナマイト巻きつけたろか)」



 噂が噂を呼ぶだけである。



「あいつら3階にいるのになんでひそひそ声がここまで聞こえてくるんだ…?」


 最後のとかもはや殺害予告じゃん…。


 休憩場所にここを選んだのが運の尽き。


 今更移動しても逆効果だろうが、こんなところにいては全く気が休まらない。


「み、美亜、ちょっと移動しようぜ……美亜?」

「………」


 なんか返事がない。


 隣を振り返ってみると、両手を頬にあててなんか呟いてる美亜がいた。


 どうしたんだろうか。


 俺は肩を叩こうと手を持ち上げた。


 そこでふと、手を止め、考える。



 確かに以前までの俺なら即座に肩ポンを繰り出していただろう。


 でも、俺は成長したんだ。


 ここですぐに声をかけるような俺じゃない…!

 

 そのせいで以前食らった頭突きの痛みを俺は二度と忘れないだろう。


 というか今思ったけど、何あれ理不尽すぎないか?





 そんなこんなで、俺は美亜を待つことにした。


 30秒。


「………………………」

「………………………」


 さらに30秒。


「………………………」

「………………………」


 さらに1分。


「………………………」

「……あ、あれ?美亜―?」


 返事なし。


 そろそろ視線がきついんすけど、もう抱えてでもこの場から逃げたほうがいいっすかね?


 いや、そんなことしたら周囲がうるさくなるだけか。


 ところで、こっちを見てくる人が増えてるのは気のせいだろうか。


 もっと言えば、その中に生天目がいるのも気のせいだろうか。


 うん、気のせいだよね。俺の見間違いだ。


 いや、そんなわけあるかーい。


 …何してんだろ俺。





 と、俺がそんなくだらないことを考えていると。



 ポスッと、肩に軽い衝撃が走った。



 その途端に視線が多く、熱くなったのを感じた俺は、嫌な予感を背負って恐る恐る隣を見た。




 俺の肩には美亜の頭が乗っていた。




「いや寝てるし」


 俺は思わずツッコんだ。


 これまでの俺なら間違いなくパニックに陥っていただろう…というか多分思考停止になってたんだろうな。


 人って成長するんだなー。


 …いや、そんなことよりも視線がグッサグサ刺さってることのほうが問題なんだけど。


 こんなの、耐えられるわけねーだろ…!?


 どうしよう、この状況。


 …考えても仕方ないか。


 仕方なく、俺は美亜を抱えて立ち上がった。 


 「うおっ」とか「チッ」とかいう声は無視無視。


 これって俗に言うお姫様抱っこっていう奴だよなーとか考えながら俺は早足気味にその場を去るのだった。




 …このとき、とある鈍感男の腕の中で目を閉じたままりんごみたく顔を赤くする一人の少女がいたりしたのだが、それはまた別のお話。

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俺をフッた奴が、なぜか迫ってくるんだが 盗電一剛 @8341053

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