第17話:レッツゴー体育祭②

 弘毅が走り去るのを見届けた後、俺は三年たちに向き直った。


 弘毅のお陰でだいぶ落ち着いてきた。


「で、何してんのお前」


 俺がそう言うと、件の先輩はパッと身を起こした。


 と同時に、美亜がこっちに──って


「うげぁっ!?」


 すげぇ強烈なタックルを食らった俺は、少し吹っ飛んだ。


 …コイツ本当に女子か?


 壁にぶつかった背中の痛みで悶絶していると、美亜が背中に手をまわしてきた。


「お、おい、どうし──」


 言いかけて気付く。


 …泣いてる?え、美亜が?あの美亜が!?


「ちょ、美亜!?おい、大丈夫か!?今のタックルでなんか怪我したか!?これって俺が怪我させたことになんのか!?医療費とか払うのか!?それとも──」

「…った」


 御覧の通り、俺はものすごいテンパってた。


 想像してほしい。例えば、冷たくて誰に対しても塩対応な奴がいたとする。そんな奴が急に自分の胸に飛び込んできて泣き出すのだ。そりゃあ、テンパるよな?ビビるよな?それと似たようなもん。だいぶ違うけど。


 そんな俺を、美亜はボソッと呟いただけで沈静化したのだ。なんかこいつ、武将とか大将軍とかの才能ありそうだよな。あ、俺に兵隊の才能があるだけか?兵隊というより忠犬だな。


「な、なんて?」


 冷静になったおかげで、そう訊き返すことができた。


 まああんな状況だったわけだし、心細かったんだr──




「怖かったあぁぁぁ~~~~~~~~!!!!」




「うおっ!?」


 いきなり叫んだ美亜を前に、俺は思わず仰け反ろうとした。


 だが、美亜がより一層強く抱き着いてきたためにそれは叶わなかった。


 …え?抱き着い…て…


 …


 ……


 ………?


 …………──。


「…ありがと」

「…え?」


 脳内が思考停止になっていた俺を復活させたのは、またしても美亜の一言。。


 すると、美亜は俺の胸に顔をうずめたまま、顔を上にあげた。


 …え、可愛い。何これ、天使?違うな大天使やな。


 涙目で、不安そうな目で、上目遣い。


 しかもそれを美少女がやっているのだ。こんなんそこらのミサイルより強力だろ。


 そういえば、倉石さんから送られてきた写真もこんな感じだったよな…。




 カシャッ。




「「「えっ」」」




 今の音は…俺の手元から?


 …なるほど。これが条件反射か。いや違うよね。


 じゃあ何で俺今写真撮って──


「な、なんで写真撮ってるのよ!?撮るな馬鹿!」

「ぐえっ!」


 み、見事なアッパーですね…。すげぇ綺麗に鳩尾に入った…おえっ。


「あ、あのさ…」

「おえっ、げほっ…な、なんd…おえっ」

「だ、大丈夫?」

「心配してくれんなら殴んなや…」


 ふうっ。


 ようやくいつもの自分が戻ってきたのを確認すると、


「…とりあえず、説明してもらおうか。この状況」

「え、あ、はい。えっと…」



 かくかくしかじか。



「…………」

「あ、その、す、すいません、あの、まじ、ホントに」



 俺の眼光が鋭くなるたびに委縮していく先輩方。


 さっきまでの威勢はどしたー?


 え、てかなに、まさか──


「…まじでただのノリでやったってこと?」

「う…はい」


 はぁ!?何よそれ、信じらんない!?と美亜はキレ散らかしている。


 こいつが馬鹿でよかった~。


 さっきの先生の言葉が本当なら、美亜たちは文化祭にもメイドコスをさせられるらしい。


 ただのノリなわけないでしょ。                                              


 多分というか十中八九計画されたものなんだろうな。


 …こんなの考えたやつ、頭おかしいんだろうか。いや、おかしいに違いない。


 それか…なにか、目的があるか、だな。


 ま、もう考えるのはよそう。こっちまで頭おかしくなる。


 今はそれよりも…


「この教室、どうにかしないとな」

「こいつらにやらせればよくない?」


 目怖っ。

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俺をフッた奴が、なぜか迫ってくるんだが 盗電一剛 @8341053

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