第二章
第11話 見知った天井
目を覚ますと、視界に広がったのは——。
「知らない天井……ではないな、流石に」
けれども、言いたくなるのは事実だ。ほんとうならば、目を覚ました空間が見たことのない空間であればベストだったのだろうけれど、現実においてそのようなシチュエーションは残念ながら存在しない。
組織加入、二日目。
訳の分からない組織に入ることとなって、二日目——そういうことだ。
はっきり言ってこんな組織で延々と過ごす判断をするのは、早計だ。もっと色々な判断材料を持ってきてから決めるべきだ。……というと、もう暮らすのを決めた風に見えてしまうかもしれないけれど、断じて違う。
未だぼくはこの組織に入るなどと、思っていない。
昨日は、訳の分からない単語や知識を怒濤の如く脳内に注入し続けた結果、脳がパンクしてしまったから——だから、休息を取った。
ただ、それだけのことだ。
「おはよう。良く眠れたかな?」
サーティーンはドアをノックすることなく、いきなり部屋へ入ってきた。
驚くだろ。
ぼくが着替えをしていたらどうするつもりだ? 逆ラッキースケベじゃないか。
「ラッキースケベに逆があるのかは知らないけれど……、でも、別に見られても減るものじゃないだろう?」
それはそうだけれど。
そうかもしれないけれど。
「……やれやれ。そんな面倒臭い話を朝からするつもりはないんだよ、ええと、未だ名前がついていなかったな……。それもきっとボスから命名してくれると思うけれど」
ボス、か。
そういえば昨日はそんな話を一切してこなかったな……。まあ、今は研修期間と言えば良いだろう。
だから、ぼくにはナンバーが付与されなかった——ノイズにより何かしらの影響を持つ人間であると、彼らは思っているようだけれど、しかしながら最終的な組織への加入は本人に委ねられている。それは間違っていないし、寧ろそうあって逆に不自然なことすらある。
ノイジー・デイで変容しまった人々を一つに集めるのが目的ならば、ぼくだって有無を言わさずに組織に加入させられているだろうし、もっと組織のメンバーも多いに違いない。しかしながら、現実は違う。
最低でも、十五人しか居ない。
そんな組織を、ぼくは信じて良いのだろうか?
全てを——擲ってでも、信じても良いのだろうか?
分からない。分からない。……きっと、何時になっても分からないのかもしれない。
「……未だ信用してくれていない、ようだね。まあ、そうなるのも致し方ないか」
サーティーンは言う。ぼくの価値観を感じ取ってくれていること——それ自体は有難いことだけれど、しかしながら幾度となく考えたところで、結局その話に落ち着いてしまうのは、それはそれでどうなのだろうかと思う。
信用してほしいなら、それなりの対応をするべきではないだろうか?
そうしないのならば、信用されないのも致し方ないのではないか……。まあ、それをサーティーンに言ったところで意味がないのだと思う。何故ならサーティーンそのものはただの組織のコマに過ぎない。つまりは、ゼロ——ボスの意向に従っているだけに過ぎないのだ。極論を言ってしまえば、ゼロが死ねと言えばそのまま死んでしまうこともあるだろう。
ゼロの意向に完全に従う存在。
それが、サーティーンでありフィフティーンでありナインであり——組織の一員であろうと思う。
「……信用する訳がないだろ。未だ二日目だ。それとも、ぼくがそんな簡単に信用してくれる人間だと思っていたのか? それは心外だな」
「そこまでは言っていないけれど……」
サーティーンが深い溜息を吐いて、そう言った。
はて、そう思っていたからさっきの発言をしていたのではないのだろうか?
「まあ、信じてもらうのに時間が掛かる——それについては致し方ないよ。時間が解決してくれるのであれば、わたしは、組織は、幾らでも待つ。それが終わった時に、きみが少しでもノイズに立ち向かう意思を示してくれるのであれば、それは成功と言えるからね」
成功——ね。
確かに間違っていないのだろうけれど、ぼくは延々とそれを繰り返したくないし、面倒ごとには巻き込まれたくないし、出来ることならさっさと解決しておきたいことではある。
さりとて、それがぼくの参加で解決するというのなら——そうだな、報酬次第で参加してやっても良い。
「報酬、って……。どんな報酬をお望み?」
えっ、いきなり検討事項に入ってくるのか。
それは流石に想定外だったな……。例えばどんな報酬が期待出来るだろうか? 金銭面については不自由しなさそうな雰囲気があるけれど。
「……嘘だよ。わたしがそんな権限を持っている訳がないだろう? ボスならば、もしかしたらそういった交渉をするのかもしれないけれど」
「何だよ、それ。だったら言うなよ。思いっきり上げて落とすだけのことをして」
サーティーンはぼくの心を弄んでいるのか?
だとしたら、ちょっとばかし問題だな。
「……それじゃあ、そろそろボスの元へ向かうこととしようか?」
どうして?
「どうして、って……。ボスが呼んでいるからだよ。きっと任務への参加を命じられるのだろうけれど、どうして入ったばっかの人間にいきなり任務に参加させるのだろうね? もしかしたら、人手が足りないのかもしれないけれど」
「それは事実では?」
おっと、思わず声に出してしまった。失敬失敬。
「声に出してしまう気持ちは分かるけれど、少しは抑えてほしかったかな……。それはそれとして、ボスへその立ち振る舞いはしないでね。ボスは意外と怒りっぽいから。怒りっぽいというのもどうかと思うけれど、そういうところは繊細なんだ。だから、よろしく頼むよ」
そう言われてもなあ。
人って考える葦って言うだろ? 考えること自体そのものを止めてしまう——ということは、人間の生き方そのものを否定してしまうことになりかねないかな?
とまあ、そんな御託は通用しないのだけれど。
と、いう訳で……ぼくはサーティーンに連れられて、再度ゼロの居る部屋へと向かうことにするのだった。
ノイジー・アフター 巫夏希 @natsuki_miko
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