第104話 ステージに咲くのは、紅い華か。
僕は、莉子が踊り終えた後、車椅子で、戻って来るのを、ステージの陰で、待っていた。誰もが、同じ気持ちだった。感極まって鼻水と涙で、ぐちゃぐちゃになっているのは、僕だけでなかった。
「生きてて良かった!」
黒壁が、僕に飛びつきそうになったので、交わしながら、車椅子で、戻ってくる莉子を迎えに出た。
「莉子!」
もう、僕は、人目を気にするのを忘れていた。高揚感は、マックスになり、莉子も、踊り疲れた体を車椅子に委ねながら、滑り込んできた。僕が、腕を広げ、抱きしめる。この一瞬の為に、生きてきた気がする。
「良かった!莉子。最高だった」
「新!私、やったわ!頑張れたの」
僕は、莉子の髪に顔を埋める。
「本当だ。良かった。本当に」
莉子の髪の匂いに、幸せを感じた。ほんの一歌だけだったけど、莉子の踊りは、可能性を秘めていた。ここから、全て、やり直せる。
「あのさ・・・」
僕に、振られた黒壁が、咳払いをしながら言った。
「フィナーレ。これからなんだよ。お前も、さっさと離れろよ」
これから、フィナーレで、藤井先生に、莉子が花束を渡す。スタッフ全員が、ステージに並び、あの有名な歌謡曲に合わせて、踊りながら、最後の、ステージに上がった藤井先生に、スタイお代表で、莉子が花束を渡す。スケジュールが押しているのに、僕と莉子は、いつまでも、感動を味わっていて、皆、どうしたらいいかと言う表情をしていた。
「ごめんごめん。」
僕と莉子が離れると、音楽が鳴り出し、皆、ステージに集まって行った。
「莉子。最後だから」
僕も、スタッフとして、紹介をされる予定。後ろに預かった花束を隠し、スタッフと一緒に、パルマを打ちながら、ステージに並んだ。一人ずつ、ギタリストの打ち鳴らすギターに合わせて、出演スタッフの紹介の後、藤井先生が挨拶に、ステージに立った。
「今日は、本当に嬉しく思います」
藤井先生は、またも、泣いていて、言葉にならない。自分の家族の事、病気の事、莉子の事、色々、あったんだろう。莉子が、車椅子のまま、先生の間に行った、僕は、花束を莉子に渡し、藤井先生の顔を見た。その瞬間だった。後ろに並んだスタッフの間から、黒い影が飛び出した。また、何かのサプライズだと、されもが思った。僕も、そう思った。あが、そうでは、ない事を瞬間、僕は、感じた。黒い影は、フードを目深に被っていたが、その目は、血走っていて、莉子を真っ直ぐに見ていた。振り上げた手の先に、光る何かを握っていた。
「莉子!」
僕の身体が、動いていた。瞬間、藤井先生の驚いた顔だけが、僕の目に入った。莉子の体をに覆い被さりながら、僕は、何が起きたのか、理解できなかった。
「きゃー」
誰の物とも、わからない悲鳴が、満ち溢れていた。僕は、莉子の体の上に落ちながら、彼女が、ひどく怯えた表情で、僕を見ているのに、気づいた。僕は、そのまま、莉子の足元に、崩れ落ちた。酷く、左の背中が、熱く燃えていた。
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