第105話 自分の居場所を求めて

綾葉は、架のいる部屋に飲み物を運んできた。

「また、しばらく、会えなくなる。いろんな問題を片付けなくては」

「帰ってきてね」

そう言いながら、架にコーヒーを差し出す。

「すぐ、帰るよ」

綾葉は、かすかに笑った。

「そう言えば、聞きたい事がある。本当に、心陽が突き飛ばしたのか?」

「えぇ・・間違いないわ。私の事を、すごく、恨んでいた」

「心陽は、感情が激しいけど、そんな娘じゃない」

笑みを浮かべていたが、表情は、硬くなった。

「架は、心陽を庇うのね。そして、莉子の事も。莉子は、離婚してくれないんでしょう?また、あなたを縛るつもりなのね」

「そんな事ないよ。莉子も心陽も、悪い人達ではない」

架葉、コーヒーを続け様に、口に流し込んでいた。

「莉子に逢ってくる」

そう言い、席を立とうとした瞬間に身体が、崩れ落ちた。

「な・・何をしたんだ?目が回る・・・」

「架。少しだけ、寝ていて頂戴。起きた頃には、全て終わっているから」

「綾葉、バカなマネをするのは、よせ。もう、よすんだ」

「よす?話をするだけよ。待ってて」

綾葉は、床に崩れる架をそのままに、外へと出ていった。


莉子は、目の前の光景が、理解できないで、居た。床に新が倒れ込み、その倒れ込んだ背中には、真っ赤な赤いシミが広がりつつあった。

「救急車!」

黒壁が、叫びながら、飛び出す。莉子は、呆然としたまま、藤井先生の腕にしがみついていた。

「何で?どうして?」

フードを目深に被った人物は、そばにいた、ギタリストや歌い手に、捉えられ床に押さえつかれていた。スペイン人の体格に、押さえ込まれ、動けない。

「一体、誰なんだ!」

他のスタッフが、フードを剥ぎ取ると、中から、現れたのは、1人の老婆だった。

「え?」

莉子は、驚愕した。その顔は、見覚えがあった。

「知っているの?」

藤井先生が、莉子の表情を読み取ろうとしていた。

「どうして?」

「どうして?だって?あの時、死ねば良かったのさ。お前のせいで、私の可愛い孫が・・」

「そ・・そんな」

莉子の頭の中で、あの日の記憶が鮮明に蘇る。

「あの日・・・相談があるって、呼び出したのは・・」

綾葉の祖母。どうしても、莉子にお願いがあると訪れていた。ふとした事で、揉み合いになり、莉子は、階段の下へと転落してしまった。

「だけど・・・だけど、新は、関係ないわ」

「お前が死ねば良かったんだよ」

しばらくの沈黙の後、

「どいて!」

黒壁が、宙を飛んで現れた。救急隊員を引き連れて。新の状態を確認し、あちこちに電話をかけまくる。

「新は?」

莉子は、震えながら、新の血で染まった床に、跪いていた。

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