観察記録

第7話 ９月２６日

趣味は"人間観察"だという人がいる。

道行く人を観察すれば、その人の服装や荷物で行く先をいくらでも想像できる。

立ち寄った喫茶店で観察すれば、席につく人数や着席の位置で人間関係を想像できる。

悪趣味だとも言えるけれど、だけど人を観察し想像するのに終わりはなく、それは密の味のように楽しくてやめられない。

ほら、また。面白そうな人が歩いている。

赤い服装に黒い髪をなびかせて、手には大きな人形を抱えている女性がいる。

人形は、どことなく男の子ぽい服装が身につけられている。

女性は人形に語りかけ、時には相槌を返しており、どうも会話をしているようだ。

彼女にとって人形はいったい何に見えているのだろうか。

興味深げに彼女の様子を観察していると、スーツ姿の男性が急ぎ足で近づいてきた。

男性は女性に何か話している様子だが、女性は聞こえていないように反応がなく、ただ人形と話しをしている。

そのうち、男性はタクシーをひろい女性を乗せて走り去っていった。

はたして、あの二人の関係は何だったのだろうか。

いや、正しくは人形も含めた、３人の関係なのかもしれない。

ああ、本当に人間観察は楽しくやめられない。