回転寿司の渋滞

 とある駅の近くには、回転寿司屋があった。ゲームセンターなどが入ったビルの中に、今年開店したばかりのようで、平日休日問わず人々でごった返している。だが、回転寿司とは言っても直接寿司がベルトコンベアーで流れてくるという訳ではない。





 巷を騒がせたあの事件以来、寿司が流れてくるという光景を見ることは無くなり、代わりにたまにわさびや醤油などが流れてくるだけになった。注文はタッチパネルから行い、上の部分にやってくる。ソレを取って食べるということが日常化していた。






 そんなある休日に、四人家族がこの店にやってきた。時刻は昼過ぎ、幼稚園くらいの男の子と、小学校三年生くらいの男の子。それと両親。皆、夏に入ろうとしているからか、涼しげな格好をしている。他の客も、涼しげなワンピースやTシャツなどが多く、長袖を着ている人は誰もいない。





 父親らしき人物が全員分の注文を聞き、それをタッチパネルに反映させていく。その中にはポテトやジュースといったものも見えるが、基本的にはまぐろや納豆巻きなど、定番の寿司ばかりだ。味噌汁や茶碗蒸しが入っている様子はない。





 サイドメニューはすぐに来た。自分達のところにポテトやジュースが来るなり、男の子二人は目を輝かせる。

「にいちゃん、ジュースだよ」

「ポテト、二人で分けような」

その様子を両親がにこにこと見守っていた時、事件は起きた。





「十キロ先、渋滞です」

目玉である寿司が中々到着しないのだ。子供達はポテトの皿も、ジュースも空にしている。その上渋滞とは何事か。父親はタッチパネルの『店員呼び出しボタン』を押した。





 周りを見てみると、他の席でも同じことが起こっていて、店員が来るのを今か今かと待っている客が多いようだった。中には怒っている客もいる。反対に、のんびりしながらスマホをいじる客もいた。





 そもそも、この日は休日のランチタイムということもあり、沢山の客が押し寄せていた。待合席にも客はおり、なんならその行列は店外へと伸びている程だ。加えて店員の半数はアルバイト。これでは対応出来るはずもない。





 結局のところ、この家族が最初の方に注文したまぐろを手に取ることが出来たのは三十分後のことだった。その後次々に注文した皿がやってくる。子供達二人は無邪気そうにはしゃぎながら食べているが、両親二人はうんざりした顔をしている。





 やがて、全ての商品がやってきて、テーブルの上には隙間がなくなってしまった。その様は先程の渋滞にもある意味似ているようだが、父親が食べ終わった皿を積むと、渋滞はなくなった。




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