暴食人形
明日は待ちに待ったクリスマス。私は枕元に靴下を吊るし、いつも通りにくまさんと一緒に夢の中へ入っていく。私は『お人形が欲しい』と思ったが、サンタさんが何を贈ってくれるかは分からない。ワクワクしながら布団を被った。
翌日の朝、窓辺から光が差し込む少し前のこと。私のベッドの下には緑のリボンがかけられた、赤い長方形の箱があった。なんだろうと思い、リボンを解き箱を開けると、中には人形が入っていた。私がずっと前から欲しかったものだ。テレビの前に座る私にとっては今まで憧れでしかなかった人形がここにいる。
その日は学校が休みで、従姉妹達が遊びに来ていたこともあり、私は歳上の従姉妹と一緒に貰ったばかりの人形で遊んでいた。
「ミリー、その人形どうしたの?」
「えへへ、サンタさんに貰ったの!」
「良かったわね。後であたしにも貸してね」
この人形の凄いところは、付属のポテトをパクパクと食べるところだ。試しに実演してみると、従姉妹が驚き、
「もっと食べてみる?」
と、ポテトを差し出した。変わらずもぐもぐと咀嚼している。私達はソレを笑いながら見守っていた。
その夜、私は目を覚ましてしまった。いつもなら何も怖くない筈なのに、この時は何故か嫌な予感がした。小さな足音が聞こえ、私の目の前で止まる。昼間遊んでいたあの人形が目の前にいたのだ。
「もっとちょうだい?」
そう言って人形は私の髪を掴み、口の中に入れようとする。
「何をしようとしてるの⁈」
「おいしいの、もっとちょうだい?」
私の髪が人形の口の中に入っていき、噛む音まで聞こえてくる。バリバリという音がして髪が抜けていく。
「痛い‼︎痛いよ‼︎」
「おいしい、おいしい」
それでも尚、人形は食べるのを止めようとはしない。
嫌な音がして、私の頭から血が出ていることに気づいても人形は止まってくれない。
「おいしい」と言いながら私の髪の毛を食べていく。そのまま私は意識を失ってしまった。
気づいた時には病院で、私は頭に包帯を巻いているようだった。父と母が心配そうに私の顔を覗き込んでいる。
「ミリー、大丈夫か⁈」
「痛いよ……。あのお人形はどうなったの?」
「私がゴミに出しておいたわ。もう二度と怖い思いはしないからね、ミリー……」
「そう、なんだ……」
退院した後で聞いた話だが、あの人形のせいで事故に遭った子は私一人だけではなかった。少なくとも五十万体は売れていた、とニュースで報じられていることからして、今もどこかで私と同じような目にあっている子がいるのだろうか。
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