電子黒板あみだくじ

 とある小学校の教室には、プロジェクターのような電子黒板があった。従来の黒板やホワイトボードに代わり、タブレット授業というのも導入されている。先生たちも、電子ペンでの書き込みと問題を記したスライドを交互に使う。それがこの学校にとっての『当たり前』だった。




 チャイムが鳴り、中休みになった。大半の子ども達はカゴからボールを出して外へ駆けていったり、ある子は本棚から本を取り出して読んでいた。図書室へ向かう子もいるし、自由帳でお絵描きしている子もいる。皆制服の上着を脱いでいた。





 そんな中、三、四人の男の子達が電子黒板の前に集まり、電子ペンのスイッチを入れる。そのうち一人が椅子を近くの席から持って来て踏み台代わりにすると、少しぐにゃぐにゃになったぎこちない線で何かを描き始めた。





 黒い線が電子黒板の真ん中に、規則正しく書き込まれていく。よく見るとそれは少し物足りなさを感じられるが、あみだくじだった。下にハズレとアタリを書き込んだ彼は椅子から降りた。





「描き終わったのか?」

「うん。だからさ、みんなでじゃんけんしようぜ」

「最初はグー……」




 じゃんけんの結果、一番背の低い少年である武史が最初にあみだくじに挑戦することになった。背伸びをしながら椅子の上に立ち、雄也が書いた線をぎこちなく指で辿っていく。




「うう……。ハズレだ……」

「まあ、いいじゃん。次頑張れば」

「うん……」

稔が小さな肩を叩くが、武史の顔は浮かないままだ。





「次俺な〜」

喜び勇んで稔が線を辿っていく。ハシゴのようなソレを太めの指で鼻歌混じりに、楽しそうにたどっていくが、結果はやはりハズレだった。

「ははっ、武史。俺もハズレだ」




「次、俺だ」

今度は雄也の番だった。慣れた手つきであみだくじの線を指で辿っていくと、アタリにたどり着いたようだった。

「あ、アタリだ‼︎」

雄也は拳を小さく握りしめた。




 残る一人はいつの間にかその場からいなくなっていた。しかし、雄也の勝ちは揺るがない。そもそもの話、このあみだくじは風邪で休んだ子が二、三人出たことが原因だった。この日の給食にはゼリーが付いていて、誰が最初におかわりをするのか決めていたのだ。




 チャイムが鳴ると同時に、大半の子どもが教室に戻ってきたが、残る一人はまだ戻らない。そのうち先生が教科書とDVDを持って戻ってきた。




 時計を見ると後一分で授業が始まる、という時に彼は駆け込んできた。

「ごめんなさい‼︎お腹の調子が悪くて……」

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