山吹色のお菓子工場

 ○○県の郊外、川の土手や住宅街から程近いところには工場があった。何の工場なのか、近づいただけでは分からない。外観だけでは大正時代の大きな洋館にさえ見えただろう。意外なことに、そこに向かう子どもと先生達の姿があった。




 バスなどは利用せず、まるで集団登校のように歩きで向かっていく。どうも近くの小学校の子どもらしく、皆が違う帽子を被り、色とりどりのリュックを背負っている。肩からは水筒をかけていて、ぱっと見は遠足のようだ。




 三十分くらい経っただろうか。エントランスに着くと、首から名札をかけた眼鏡の男性がやってきた。彼はこの工場の人らしく、笑顔で二十人前後の子ども達を出迎えた。

「ようこそ、山里お菓子工場へ!」




 中は工場という場には似つかわしくない、広々としたホールが広がっていた。端の方にはピカピカに磨かれた黒いソファもある。ここだけ見ると一流ホテルにも見える。子ども達はここで説明を受けパンフレットを貰った後、おじさんに着いていくことになった。




 ガラス窓の向こうには生地をこねる機械や、カスタードを造る機械、それにベルトコンベアーが忙しなく動いている。どうもここでは『カスタードまんじゅう』を作っているようだ。全国のコンビニに出荷される全てではないのだろうが、少なくとも一日三万個は作っているらしい。下の方へ行くと、レモン色のまんじゅうが優しくもテキパキと詰められている光景があった。




 迷路のように入り組んだ中を一通り見て回った後には、休憩スペースのような場所に辿り着いた。プラスチック製の、球場などで見かけそうなベンチと、桜色に塗られた自動販売機がある。壁にはビデオを流す為のモニターが設置され、目と鼻の先には上映時間がデカデカとゴシック体で書かれた簡素な看板があった。どうも二分おきにビデオが流れる仕組みのようだ。




 子どもと先生、工場のおじさんがモニターの前に群がる。背の低い子や近くで見ようとする子は前へ行こうと、背の高い子を押しのけていた。おじさんはその様子を優しい笑顔で見つめている。





 シアターが始まると同時に、SFもので流れそうな曲が流れてきた。画面の中には悪役にしか見えないような、威圧的な外見のロボットが現れ、朗らかな口調で、

「ようこそ、山里本社工場へ……!これから目くるめくお菓子の世界へご案内しましょう」

と、その姿に違わぬ低い声を紡いだ。




 それから約一分五十秒、子ども達はシアターを見ることになるのだが、大半の子どもが余りのギャップに耐えかねてケラケラと笑い転げていた。更には先生も巻き込み、おじさんまで吹き出しそうになっていた。







 

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